男友達②
その日の放課後、再び勉強会を開くということで黒咲達が集まった。あの集中した空間でまた勉強できるのかと思いきや、その期待は呆気なく砕け散る。
「あの男性はどなたですか!? 私に無断で勝手に知らない男性と話すだなんて、許せません」
(なんかメンヘラ彼女みたいなこと言い出したぞこの人)
家に招いた途端、銀城さんに僕を強制的に正座させて説教し始めた……状況が理解し難いな。あと部屋の隅で静かに爆笑してる朱李は許さん。
「黒咲さん、一旦落ち着いてくれ。多々良部にも理由があるに違いないだろう。それに君が彼の行動を制限していい権利は無いんだよ」
「……確かにそうですけど……ちょっとだけ寂しかったんですよ」
銀城さんが興奮した黒咲を静止させ、彼女はそれに従うが羨望の籠もった一言を落とす。思ってはいけない感情だけど、……少し可愛いと思ってしまった。普段は聖女然と過ごしている黒咲から放たれた、”甘え”にも取れる言葉。僕も含め、この場にいる全員がドキッとした。隅で笑っていた朱李も、ほんのりと頬を赤らめている。
「こ、これが聖女……なんというヒロインオーラ! こんなの雑魚敵なら一瞬で倒せちゃうよ」
「……おい待て、なんで俺の方を向いて言う?」
何かしらの意図を感じるんだが……まぁいい。今は黒咲の機嫌を直さないとな。
「悠斗とは友人ですよ。……いや当然のことなんですけど、なんか違和感を感じますね。とにかく、僕には朱李やメグさん以外にも友人はちゃんといますから」
「……分かってます。分かっているのです。貴方にも貴方の生活があるのだと。しかしどうしても、貴方を奪われてしまっている気がしてならないのです!」
またまた”甘え”の言葉。朱李は口を開けたまま固まっているし、銀城さんは頭を横に振って呆れていた。……黒咲が段々とポンコツになっていってるような……。
「別に、悠人とは時々会って話すくらいの仲ですし、あいつが帰ってきたからって皆さんと過ごす時間が減るわけではありませんよ」
「ならばよいのですが」
今はこのあたりで納得して貰い、その後は普段通りの勉強会を行なった。着実に頭が良くなっている事を感じ、悪い気は全くしていない。だがそれでも、あの友人をここに招きたいという思いがあった。
ペンを進める間にもその思いは募っていき、休憩の時間で遂に口に出してしまった。
「あの、悠人をここに誘ってもいいですか?」
「何故?」
黒咲から直ぐに飛んできた疑問に対し、僕は出来るだけ平静を装って答える。
「あいつ、大会から帰ってきたばっかでテストの自信が無いらしいんですよ。悠人ならこの場にいる誰も知らないって訳じゃないし、大丈夫かな、って」
銀城さんは黒咲の敵となる人物以外には好意的だし、朱李は猫被り状態とはいえ何度も話している。あとは黒咲の同意が得られればなのだが……。
「……多々良部さんは、私がしっかりと話した上で信用できる人を信じればいいとおっしゃいました。以前のように全ての男性を拒絶するというスタンスからは変わりましたが……やはり下心で私に接しようとする男性の数は変わりませんでした」
黒咲は視線を銀城さんの方へやり、続いて彼女が説明し始める。
「黒咲さんも彼女なりに、今までとは違った対応をしようと心がけている。心がけているのだが……酷くあしらわなかった男は皆、大喜びして帰っていくのだ。どうやら自分だけが黒咲さんから特別なふうに見られているのだと勘違いしているようでね。これを機にとばかりに話しかけてくる男は増え、返事をしただけで親密な関係になったと勘違いしている輩も出てきている」
「えぇ……」
男嫌いな黒咲が良い方向へ向かうようにしたアドバイスなのだが、どうやら黒咲の人気は僕の予想を遥かに超えていたらしい。想定外の事態に呆れた声しか出ない。
黒咲という女子がどれほど人気であり、また男からの視線を集めているのかもっと知っていればより良いアドバイスが出来たのに……そのような後悔が止まない。
「あの、その件でメグさんが被害に遭ったりとかは……」
「それは安心してくれて構わない。『あの時は返事してくれたのに!』と謎に激昂しかけた輩は、私が対処したからね」
「え、対処って――」
僕の質問は、銀城さんの『ふふ』という含みを持たせた笑みに遮られた。いつの間にか僕の真横に移動していた黒咲と僕はぶるりと震えた。
その輩が一体どのような目に遭ったのかは知らないが、少なくとも大きな問題にはならない、はず。そもそも非はあちら側にあるわけだしね。それよりも……その男達の身が心配だった。
話が横道に逸れてしまったが、それを修正するように、先程まで黙っていた黒咲は口を開いた。
「別に貴方の友人を貶そうとは思いません。ですが……その、私に馴れ馴れしくするような男性なのですか、その方は?」
黒咲が案じているのは、悠斗が今までの男のように彼女に下心を持たないかどうか。また……数年前のように、彼女に襲いかかるという暴挙にでないかどうかだ。
それを勿論考慮した上で、僕は即答する。
「あ、それは無いです」
「うん、無いね」
僕と朱李が同時に言った。二人して断言したことで、逆に不審がり目を細める黒咲。
「何故そのように言い切れるのですか」
「いや、だって長井くんって――」
「――彼女がいますから。それも可愛い可愛いって言ってくる、そりゃもう溺愛してる彼女が」
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