男友達①
「……わざわざ取りに帰るくらい重要な書類なら、初めから持っていけよ……」
席に座り問題集を解きながらボソッとぼやく。昨日起きた突然の父の帰宅に驚く暇すら無く、カップラを食べ終わると同時に職場へ戻っていった。その際に残して行ってくれたお土産に関してはありがたく感じているが、せめて連絡してほしかった。
別に父との関係が険悪というわけではない。寧ろ仲が良い方だと思う。母さんが他界してから家庭に僕と父さんだけになり、必然的に家事等を協力する機会が増えた。結果として僕も平均レベルの家事は学んだが、副次的に父との仲が良くなったことで嬉しい限りだったな……。
回想しながらも問題を解く手を止めずにいると、後ろから声をかけられる。
「よっ、久しぶり。元気にしてたか?」
声をかけた爽やかな男子はそう言う。
「あれ、悠斗じゃん」
茶色がかった髪を持つ彼の名前は、
「『元気にしてたか』ってこっちのセリフなんだけど……」
「まぁそーだな。一応バスケの大会で行ってたわけだし」
彼の所属する男子バスケ部は地区大会を突破し、全国大会に出場することとなった。会場が遠く離れていたため、ここ最近は公欠として姿を見ていなかった。トーナメントで第一試合は突破したが、第二回試合で惜敗したというニュースは聞いていた。そろそろ帰ってくる頃だと思っていたのだが、まさか今日とは……意外だった。
「取り敢えず、全国試合おめでとう」
「ありがとな。まぁ負けたのが惜しかった分、悔しさもあるけど。それは来年に発散するかねぇ……」
そう述べる彼は一見そこまで悔しさを感じていないように見えたが、二年以上の付き合いで心底後悔している感情が読み取れた。彼にかける言葉がこれ以上見つからず心が右往左往していると、彼は笑った。
「お前がそんな顔すんなって! 俺もミスしてた自覚あるし、気にすんなよな」
「……そっか」
このような性格であるから、僕は彼を好ましく思っている。
「まぁ直近の問題としてテストはこなさねーと。向こうでちょくちょく勉強してたから、まぁ平均点は取れるだろって感じだ」
「あっ、なら――」
「あら、長井くんじゃないですか」
僕の声を遮ったのは、教室に入ってきた朱李。悠斗には彼女の本性を見せていないため、上手く猫を被っている状態だ。
「久しぶりっす、西宮さん」
「全国大会、お疲れさまです。それで今日はどうしてこちらに?」
「あ、いや、琥珀に挨拶しに来ただけっすよ。もう朝礼ありますし帰りますね」
そう言い残し、悠斗は自分の教室へ帰っていった。彼の姿が見えなくなり、周りに誰も聞き耳を立てていないことを確かめた朱李は化けの皮を脱ぐ。そんな朱李は悠斗の出ていったドアを眺めながら呟いた。
「ん〜、今日も私が現れた途端に帰っていったよね。不思議だ」
「お前が苦手なんじゃないのか?」
「歯に衣着せぬ言い方、どうもありがとう。いやでも私と長井くんって接点が殆ど無いし、苦手に思われるきっかけとか無かったんだけどなぁ……君には変わらず接してるし」
「深く考えても仕方がないぞ。次会ったときに聞けば良い」
「そんなストレートに尋ねれないよ……」
その言葉と同時にチャイムが鳴り、この話はそこで打ち止めとなった。
昼休みとなり、いつも通りに購買でパンを買う。今日は黒咲達と集まって食べる予定は立てていないので、教室で朱李と食べようと思いながら歩いていた。そこへまたもや後ろから声をかけられた。
「よっ、暇か?」
「……悠斗か。お前も昼飯?」
「あぁ。久しぶりにお前と食べようと思って教室に行ったら、まさかバッタリ途中で会うなんてな。一緒に食べないか?」
「良いぞ。じゃあ、教室しt――」
「中庭のベンチで食べようぜ! だってほら、その、青春っぽいじゃん」
「あ、うん。分かった」
教室で食べようと提案しかけたところ、彼の言葉によって遮られた。確かに中庭のベンチならば植物の屋根で日陰が出来ており涼しく過ごせる。理由が”青春っぽいから”ってのが、また悠斗らしい理由だ。
決定したが早く、僕らは中庭のベンチへと向かった。……その途中で黒咲と銀城さんとすれ違ったが、互いに何の反応も示さなかった。これは有名な彼女達と知り合いであるという事実が広まることで面倒事が舞い込むことを防ぐための、僕の我儘である。彼女達は一瞬だけ悲しそうな顔を見せたが、直ぐに快く返事をしてくれた。その時に申し訳無さを感じたことは、誰にも話せないけど。
すれ違った際に悠斗を見たが直ぐに目をそらしていた。……これは後で問い詰められるな。
まぁ、後は久々の悠斗との会話と食事を素直に楽しんだ。といっても彼はバスケが得意なことに加えてこのイケメンなので人気がある。明るい性格もあり、女子だけでなく男子にも好意的に思われている。今まではクラスメイトと食事をしていたらしいし、こうして次に時間を共にするのも暫く後になるかもしれない。
普段は面倒な事を避けているのだが、今だけは放置して後で困ることになっても良いのかな、と思った。
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