再会③


「なるほど貴方は多々良部さんの親友と……私は彼の友人です。


 最後の部分を強調して伝える黒咲の意図がよく分からない。


「ふ〜ん。あ、私は多々良部くんに処女を捧げる約束してますから」


「しょっ!? な、なな何を約束してるんですか多々良部さん!」


 一応朱李と黒咲って初対面だよな。……なのになんて酷い会話してんだこの人達。間に挟まれてる僕の身にもなってくれよ。黒咲からは困惑と怒りの入り混じった視線が、朱李からは同意を求める口パクが送られてくるんだけど。


「誤解です。こいつが勝手に言ってるだけですから」


「よ、よかったぁ」


 ここで黒咲が安堵する、が逆に朱李からは睨まれる結果となった。


「たーくん? 私は君の女(友達)でしょ。何を他の女子に浮気してるのかな」


(こ、こいつ……もっと誤解を招くような言い方しやがった!)


 おかげで黒咲が険しい視線に逆戻りだよ。


 さて、結果的に二人の女子に睨まれることとなったわけなのだが……ちなみに、ここまで僕は少ししか発言していません。


 学園で人気の女子二人に睨まれる。……ドMな人、それこそ『黒聖女様に罵られたい同好会』の人達にとっては険悪な朱李の追加で天国のようなシチュエーションとなっているが、生憎僕にとっては地獄の他でもない。運良くあの部屋での地獄から抜け出したと思ったのに、苦難や苦悩に変わりないのだが?


「まぁまぁ、一旦座って。私達は黒咲さんと多々良部琥珀についての状況を把握してないし、落ち着いて話し合いべきじゃないか」


 ここでナイスフォローな騎士様。チャンスとばかりに俺も座り、半分が座ったことで残りの二人も座らずを得ない状況を作り出す。


「……その通りですね」


「黒聖女様からの話も聞かなきゃだしね」


(取り敢えずは危機をやり過ごしたかな。……まったく、なんで僕がこんな目に)


 口の中で愚痴りつつも、僕は説明を始めた。



 話した内容は、あの部屋での大まかな出来事、あの部屋についての予想、そして黒咲と現実でも友達になったこと。


 彼女の過去、そしてバニー事件については内緒にし、僕の説明に黒咲が適宜解説を加えていく形で説明していく。難しい内容であったが、なんとか二人に理解してもらうことができた。


 朱李には黒咲の夢を見たと事前に相談していたので、あまり動じていなかった。意外だったのは、周さんが驚きを隠しきれていなかったこと。どうにも、黒咲は周さんに概要を伝えていなかったみたいだ。


「まさかそんな理由が……」


「同日に見る私と多々良部さんの夢が一致する確率など、万に一つよりも遥かに低いです。信じ難い事象でありますが、どうにか納得していただけませんか?」


「黒咲さんの話ならば信じる。たとえ夢の内容であろうと、彼との縁を強めたいという意志も。……だが、男との干渉は規定に反して……いやしかし黒咲さん自身が望んでいるのなら……いえ、やはり私は何も言いません」


「ありがとうございます、周さん」


 二人の間には険悪なムードなど微塵も感じられず、互いに信用し合った関係だと見受けられる。……少し、騎士様についてもっと知りたくなった。


「話がまとまったところで申し訳ないんですけど、周さんの名字ってお聞きしてもよろしいですか? 女性をずっと名前呼びなのは少し抵抗があるので」


「あら、多々良部さんは貴方のことをを”朱李”と名前の方で呼んでいらっしゃいませんでいたか?」


 黒咲の疑問ももっともだ。だが朱李については……半ば諦めている。押しが強くて断れなかったから。しかも僕を苛立たせない微妙なラインで要求してきたのが余計に……ね?


 僕の疲れた表情を見て察したのか、黒咲は僕が答えるよりも前に引き下がる。そして当の本人である朱李は、黒咲がまだ名字呼びであることに対して優越感に浸っている。


(その満面の笑みを止めなさい。黒咲がまた睨んでるでしょうが)


 ……話が脱線してしまったが、騎士様の名字を聞こうか。


「私の名字は銀城ぎんじょうだよ。呼びにくいだろ? だから差し支えなければ基本は名前の方で、”周”と呼ぶようにしてもらっている」


「では銀城さんと」


「わ……分かった。君がそれで良いのならな」


 僕の応答に意外性を含んだ表情を浮かべたが、直ぐに元の顔へと戻る。気になっていた名字を知れたことだし、続いて銀城についてもう少し尋ねようか。


「じゃあ質問は変わるんですけど、黒咲さんと銀城さんは一体どんな関係で?」


 二人のやり取りで垣間見える信頼は、単なるクラスメイトとは思えない。それこそ、化学講義室の前で待っていたのは銀城さんであったし。


 僕の質問に対し、黒咲が返した。


「周さんは、私の……所謂ボディーガードのような方です」


「ボディーガード!?」


 僕は驚きで叫んでしまった。しかし朱李は知っていたかのような態度をとっている。やはり騎士様についての情報は知っていたのか。……え、クラスメイトの大半も知ってたし、”騎士様”について知らなかったのって僕だけ?


「彼女の家は代々ボディーガードの派遣会社を営んでいまして、彼女のお父様が私の母とお知り合いのようです。周さんが学生の間だけ、護衛のプレも兼ねて私の身を守っていただけるように母がお願い申し上げたらしいのです」


 なるほど。だから”騎士様”か。黒聖女様の護衛、よって騎士か。凛とした佇まいだけでなく職業までそうだったとは……”黒聖女”もそうだが、どうやらこの学園には二つ名を付けるのが得意な人がいるらしい。


 そんなことを考えていたら、銀城さんが悲しさと驚きの入り混じった表情になる。


「……多々良部琥珀は黒咲さんの事情を知っているのだな。それも共同夢での出来事でか?」


「あ、多々良部でいいですよ――はい、そうです」


「え、何の話?」


「気にすんな。人には言いたくないこともあるだろう」


 この場で朱李だけ黒咲の過去について知らない。でもこればっかりは言えない。黒咲も銀城さんも口を噤んでしまったのを見て、朱李もそれ以上は尋ねてこなかった。



 少し暗くなってしまったが、変わって黒咲が朱李に尋ねた。


「それで、貴方は一体どなたなのですか?」


「私? 私は西宮朱李。多々良部くんにしょjy――」


「もうそれはいいから。はぁ……こいつは僕の友人ですよ。親しい部類に入るかと問われたら、肯定せざるを得ないくらいの」


 また爆弾発言をしようとしていた朱李に割って入り、正しい説明をした。


(まず初対面の女子に”処女”とかいう言葉を使う時点でヤバい女子だってのは理解されてるんだから、せめてその後くらいは少しでも取り繕おうよ……)


 なんて考えていると、僕の説明を聞いたにも関わらず、黒咲の視線は険しくなる。そのことに困惑していると、彼女が口を開けて放った言葉は――


「……西宮さん、貴方は私の敵です」


 は?



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