第99話
「……お主らのやりたい事は分かった。お主ら、マグロを食いたいのだろう。それも大量に」
核心を突かれた。まさか、私の計画がバレている?いや、違う。これはカマを掛けられているんだ!ここで、下手な態度を取ったら終わる! 落ち着け私。
「それは……どういった理由でそう思いましたの?」
「年を食えば簡単な話だ。毎回、そんな連中がここに来る」
「では、許可は出せないと?」
「ああ、出せない。済まないが引き取ってくれ」
彼は突然立ち上がる。白貌が腰の刀に手を掛ける。「本当に済まない。この通りだ」彼が頭を下げる。
「頭をあげて下さい……何故そこまで、保全に拘るのですか」
彼は頭を上げると語り始める。
「何十年か前まで海は、酷く汚染されていた。何百人もの人間が人生を掛けて海を綺麗にして来た。儂も同じ様に、自分はこの美しい海を残したいんじゃ」
「そう…ですか」
彼は本気で命を懸けている。それじゃあ私は?
「……白貌さん、ここは引きましょう」
「だが、あんたはそれでいいのか?」
「ええ、構いません。彼の覚悟は本物です。それに、わたくしが無茶を言っている自覚はあるので一旦あきらめましょう」
「そうか。俺は雇い主に従うよ」
私たちは止まっている船に帰る。
◆◆◆◆
夜の運行は危険だ。明日の早朝に出発するか。俺は甲板で黄昏れている雇い主に声を掛ける。アンナは振り返り、俺を見る。
その顔には涙の跡があった。俺は黙ってハンカチを差し出す。彼女はそれを受け取り、目元に当てる。
しばらくすると、彼女は口を開く。
「あの方は、自分の命を賭けていました。なのに、わたくしはただ自分が楽しみたいと理由で彼を振り回しました。なんて愚かなのでしょう。わたくしは……」
「気にするな。お前はまだ子供だ。大人の都合に付き合う必要は無い」
「でも、わたくしは大人になりたいんです。だから、今回の件は良い機会なのかもしれません。そう考えると、少し気が楽になりました」
「そうか」
「はい、そうです。白貌さん、あなたも付いてきてくれてありがとうございました。とても、助かりました」
もう一度そうか、とだけ答え俺は彼女から離れる。
「ったく、人間は面倒くさぇ生き物だな」
船から降り、俺は彼の元に向かう
「おお、白貌さんだったかな。どうかなさいましたか?」
「一つだけ、頼みがある」
◆◆◆◆
朝焼けが眩しい。そろそろ出発の時間だ。
「おはようございます、白貌さん」
「ああ、おはよう。出発しても良いか?」
「はい、大丈夫です」
私たちは何の成果も得られずに茨ヶ丘に戻るのだった。
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