第96話

『白の輪』を出た後、アンナは自宅に戻った。


「ただいま戻りましたわ!」


「おかえりなさいませ」


「ねぇ、爺や。わたくし、これからどうしたらいいのかしら?」爺やというのは高性能アンドロイドのことだ。


「その質問に対する回答として、わたくしは、貴方様がどうしたいかを伺います」


「わたくしがどうしたいか、か……」


 そう言って、彼女は自室に戻り、ベッドに寝転ぶ。通話を繋げる。相手は勿論マオだ。


「もしもし、マオさんですか?」


『おう、アンナか。どした?』


「少し、お聞きしたいことがありまして」


『なんだ?なんでも聞けよ』


「はい。あの、マオさんってどうして傭兵になったのでしょうか?」


『あぁ……』


 彼は語り出した。


『俺が傭兵になったのは、隊長の影響が大きいな』


「隊長さんは、今どちらにいらっしゃるのですか?」


『あぁ、今は、紛争地帯でよろしくやってるよ。ジジイに殺されかけて、もう一回鍛え直すとか言ってたな』


「あの、もしもの話ですが、白貌が茨ヶ丘に来たらどうします?」


『それは敵って事か?移住者としてって事か?』


「両方です」


『そうだな……。まぁ、多分だが、俺は白貌アイツと戦わないといけないだろうな。まあ例のジジイが居るから大丈夫だと思うが。アイツは俺と同じ暴力を使える人間だからな。力ある市民として、責任が生じるのさ。これを言っちゃ平和主義者に反感喰らうが、俺は人を殺したこともあるし、紛争や暴力で今まで食べてきた。今は、暴力から離れて生活しているが、必要なら喜んでまた戦うさ。それが俺の責任さ』


「マオさんは、強いんですね」


『いやいや、弱いよ。俺より強い奴は沢山いる』


「それでも、マオさんは逃げません。わたくしは、この矛盾が嫌で仕方がないのに」


『まあ、何だ。俺はロイみたいに賢くないから、上手く言語化出来ないけど、お前は努力してるよ。その年で自分のやりたい事に向かって進んでるし、それって凄いことだよ。お前には才能があると思う。きっと、立派な大人になるぜ』


「えへへ、そうかな。うん、そうですね。ありがとうございます。わたくし、頑張りますわ」


『ああ、がんばれ。お前の『勢い』って奴は、賢い奴からしたら敵視されがちだが、凡人の俺らには必要なんだ。多少馬鹿になっても生きていける。困ったら俺でもロイでも頼れる大人は幾らでもいる。子供の特権だ。ロイあいつの言葉を借りるなら、失敗こそ成功経験だ、ってな。無理はするなよ。じゃあな』


「はい!お疲れさまでした!」


 わたくしは、決めました!世界の為にも、わたくしはより良い『食文化』を追求します!そして白貌も平和なこの街に住まわせますわ!


「決めましたわ!!」


 ベットから跳ね起きる。


「お嬢様、どうかされましたか?」


「爺や、わたくし、海鮮丼を作りますわ!わたくしの使える全ての力を動員しますわ!!」


「それはそれは、この爺やも、微力ながら全力でお手伝いさせて頂きますぞ」

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