第95話

 喫茶『白の輪』、言わずと知れた茨ヶ丘の憩いの場である。何を隠そう、わたくし、ここで店長のクロエさんとよく料理をしていますわ!


「失礼しますわ!」


 カランコロンと心地良いドアベルが鳴る。


「あら、アンナちゃん。それに彩さん。こちらへ、お昼ですか?今日は、ナポリタンがおすすめですよ?」


 クロエが出迎えた。どうやら、今の時間帯は人が少ないようだ。


「そうね、私はそれを頂こうかしら。アンナちゃんは何頼みます?私奢りますよ?」


 彩はナポリタンに即決する。ここは外れが少ないので、即決した。


「良いんですか!?じゃあ、同じものを大盛りで!」


「了解しました、暫くお待ちください」


 クロエは電子メモを取ると、すぐに厨房に向かった。


「へへ、ナポリタンですよ!今日は一杯食べれます!」


「そうそうアンナちゃん、話戻すけど、条件って何だったの?」


「えーとですね、白貌を茨ヶ丘に引き込む役をしろ、ってことですわ!」


「それって本当?アンナちゃん、お婆さんに任せてね!市長の一人や二人ぶっ飛ばしてくるわ!」


 こんな、幼気いたいけな彼女を利用して、陣営に引きこもうとする危険な大人は成敗じゃ!と彩は躍起になっている。


「やめてください、やめてください!私は大丈夫です!」


「そう?なら良いんだけど……」


「ちょっとだけ、わたくし、困ってます」


「どうしたの?」


「わたくし、勢いで実行を決めましたけど、白貌みたいな社会一般的に危険な人をこの街に入れるなんて、危ないんじゃないか、って」


「そっかーー、まだアンナちゃん子供だもね。色々悩むよね」


「はい」


「ナポリタンとナポリタン大盛、お持ちしましたー」


 意外とすぐに注文したものが届いた。ケチャップを炒めた独特の匂いが食欲をそそる。


「ありがとうございます。彩さん、いただきましょう!」


「「いただきます」」


「うん、美味しいね」


 近くで取れた玉ねぎに、培養肉を厚めに切ってベーコンのように使っている。美食家のアンナも納得できる美味さだ。


「そうだ、アンナちゃん。マオくん、だっけ?元傭兵の彼に聞いてみなよ。彼なら色々教えてくれるよ。私みたいなお年寄りじゃ価値観違うし、年の近い彼に相談してみなよ」

 

 彩は、年が離れている事に少し引け目を感じているのか、彼女の年が近い友人にも相談してみるのもいいだろう、と提案する。


「……そうですね!彼に聞いてみます!」


 曇りも晴れ、もくもくと山盛りのナポリタンを食べ始めるアンナ。可愛いなと思いながら、彩も自分のフォークを再び動かし始める。

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