海鮮丼編

第84話

 ヘリで市役所に戻り、車でドームへ向かう。修復工事は終わっているようだ。駐車場にファントムを止める。隣には雫さんの車が止まっている。


「ただいま帰りました~」


 だだっ広いドームに声が反響する。おや?研究所の自動ドアをくぐり抜けて、事務所。明かりがついている。雫さんかな。


「戻りました~」

「あっ、お帰りなさい、ロイさん!」


 雫さんが出迎えてくれる。彼女はいつも通り元気そうだ。


「特別賞おめでとうございます!お父さんも喜んでましたよ!!」

「そうですか!それは良かったです」


 にへーっと雫さんの表情が緩む。可愛い。


「京都はどうでしたか?」

「天狗とか忍者とかと戦いました!」

「えー!?どういうことですか!詳しく教えてください!」


 滅茶苦茶食いつきが良いぞ。


「──ってことがあったんですよ」

「ふふっ。面白かったです」


「ロイさん、お茶飲みます?」

「はい、いただきます」


「じゃあ、ちょっとだけ待ってくださいね」

「あ、俺手伝いますよ」


「大丈夫ですよ、長旅でしたので休んでてください」


 ここ、俺のラボなのだが……まあ良いや。大人しく座っておこう。


 ◆◆◆◆


「お待たせしました」

「ありがとうございます」


 出されたのは緑茶だ。一口飲むと爽やかな香りが広がる。


「うおっ、これめちゃくちゃ旨いですね!」

「そうですか。良かったです。良い茶葉を使った甲斐がありました!」


 そう言うと、雫さんも自分の湯呑を傾ける。彼女のほっこりした顔を見ると癒されるな。もしかして、工事の監視としてここを使ってたのかな。


「あ、それで施工費がこれくらいになりました」


 そういって網膜に契約内容が送られてくる。


「げぇ!!」


 市長との契約により半年前の護衛料金の全額が支払われた。しかし残念なことに今回優勝したわけではないので、施工費は全額負担しなければならない。頭を抱える。


「お父さんがね、これじゃあ可哀想だから6割は補助金を出すって言ってたよ」


 うーん。これで払われる護衛費と施工費の支出入を考えてようやく俺が得する形になる。というかシゲさんたちの護衛料金があまりにも高すぎる。


「市長にあとで感謝を伝えておきます」


 まあ旅の費用は全部、茨ヶ丘市持ちだから、考えようによっては無料で旅できたからプラスになるのかな。そういう事にしておこう。


「じゃあ、帰りましょうか」

「はい、お疲れ様でした」


 雫さんと別れる。俺はアタッシュケースを戻し、電源を全て落とし、ファントムに乗り込む。早く帰って寝たい。俺は疲れた。

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