第83話
「それでは審査結果を発表します」
審査員たちが一人一人に点をつけていく。まずは、技術評価。これは遺伝子組み換えの正確性を評価するものだ。続いて、デザインの評価。これもかなり難しい。盆栽は芸術品だ。その美しさが点数となる。最後に品質の評価。これはどれだけ生命力を上げられるかという事だ。
「今回の優勝者は……埋見ソウ選手です!」
「やったー!」
会場が湧き上がる。埋見君が優勝か、彼の盆栽は非常に美しかったから納得だ。俺ももっと精進しなければと改めて思った。
「続いて準優勝者は……水守ミユ選手です」
準優勝者が発表されると会場が再び歓声に包まれる。
「続いて、特別賞の発表です。特別賞は狭間ロイ選手です」
一瞬の静寂の後、会場が拍手の音で包まれる。まさかの受賞だった。正直、全く予想していなかった。
◆◆◆◆
授賞式が終わり、控室に戻るとそこには天狗がいた。彼は俺のアタッシュケースを持っていた。
「これ、返しに来たぜ」
「……何のために?」
「お前、才能に溺れてる人間だと思ってたが、案外努力してたんだな」
天狗は俺の努力を認めてくれたようだ。
「……それで、何でわざわざ取り返してくれたんですか?」
「俺も昔はそうだったからだ」
そう言うと彼はアタッシュケースを俺に投げつけた。
「うおっ!」
「まあ。俺もやらなきゃいけなかったし、ついでだ。それに、稀代の天才遺伝子学者様に恩を売っておきたいのさ」
「そうですか。まあ、このデータは使うかもしれないので有難く頂戴します」
「ああ、そうしてくれ。それと、俺の名前は風祭だ。覚えとけよ!」
「ええ、分かりました」
「じゃあ、俺は敗退した野郎どもと呑みに行くから、シゲの野郎にもよろしく頼むわ」
片手を上げ、あばよと言い残して、天狗は控え室から出ていった。
◆◆◆◆
「あ、あんた。遅いわよ。写真撮影早くするわよ」
指定の場所に行くと、ソウ君と泣きはらした顔の水守さんが待っていた。
「すみません。ちょっと迷ってました」
「まあ良いわ。さっさと写真撮っちゃいましょう」
写真は明日のトップニュースになるだろう。
「はい、チーズ」パシャリ こうして、俺らは写真を撮った。
「来年は私が家元になる為に、優勝するわよ!」
「ミユちゃん、来年も勝負ですよ
二人は仲睦まじげに話している。
「じゃあ、あたし達はここで。また会いましょう」
「じゃあね。ロイくん」
「はい、お二人共またいつか」
俺は笑顔で手を振った。
◆◆◆◆
「おお、ロイ君聞いたよ、特別賞だってね」
「はい。いやーアタッシュケース無くなって焦りましたよ。それで忍者とかは?」
タワーを出るとシゲさんが待っていてくれた。
「ああ、それなら俺と天狗で制圧した。久しぶりに暴れたわい」
「そ、それなら良かったです」
イェイとシゲさんが笑う。二人とも無傷っぽかったよな。やっぱ大戦の化け物には勝てねえわ。
「初めての京都はどうだった?」
「ええ、色々ありましたが、楽しかったですよ」
京都の神社やお寺に参り、美味しいものも食べられた。
「さて、帰ろうか」
「はい。帰りましょう。茨ヶ丘に」
こうして、二人の男旅は終わる。古都:京都では今日も忍者と極道が鎬を削っている。イガ・ニンジャ・ギルドの野望は阻止したが、壊滅させた訳ではない。強い個であれ、世界を変えることは難しいのだ。だが、世界は少しずつだが変わっている。糞ったれたこの世界でも出会いがあり、別れがある。京都という街は美しいが東京と同じように闇の部分も存在している。そして、この物語はまだ続く。彼らの物語はまだまだ始まったばかりなのだ。
◆◆お礼◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます。茨ヶ丘から離れて京都でBONSAIバトルをする章でしたが、どうだったでしょうか。
少しずつですが、話の作りが上達してきている気がします。
次章では、現代から冷凍保存された女オタクと「マグロたたき」を作ります。
ロイと四井重工との因縁の決着。
アンナの財力を使った遠洋漁業。
財閥から狙われる謎の少女。
米を守る案山子の魔改造。
次章「海鮮丼編」
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