第82話
目を覚ますと、6時になっていた。今日は本戦が行われる。早く会場に向かわなければ。準備を済ませて、会場に向かう。
京都タワーの地下で本戦を行うようだ。エレベーターに乗り、下へ降りる。
扉が開くと、そこには俺以外の参加者全員が居た。皆、緊張している様子だ。俺も緊張はしているが、あまり実感がない。
それよりも楽しみという感情の方が大きい。
予選突破した16名。それぞれが、自分の盆栽を持っている。全員に共通することは、その盆栽は素晴らしく美しいということだ。アタッシュケースが無いのは痛いが、しょうがない。
「第36回国際盆栽大会本戦を開催いたします」
出場者が壇上に上がると大会のアナウンスが流れる。俺は拳を握りしめた。その後、控室に通される。そこには昨日会った少年もいた。
「埋見君……であってるよね」
「はい!埋見ソウです。ロイさんも本戦に出場したんですね!凄いです!」
彼は元気よく返事をする。俺とは正反対な性格をしているようだ。
「ああ、そうだね。お互い頑張ろうね」
「はいっ!」
そうして、穏やかに話していると例の女に邪魔をされる。
「あんた達、本戦に出場出来たのね。フッ、よかったじゃない。でも、あたし達は優勝するからねっ!」
彼女は相変わらず高飛車な態度を取っている。
「あなたは?」
「え?名前も知らないの?呆れた……」
呆れられた。そんなこと言われても知る訳ないだろう。
「あたしは、水守ミユ。まあ良いわ。ほら、さっさと行きなさい。負け犬はとっとと消えるのよ」
そう言われ、俺らは彼女の元を後にした。
遂に本戦が始まる。
「これより、本戦を開始します」
「まず最初は1時間データをサンプリングし、遺伝子改良を施してください」
一時間といっても、普通は持ってきたデータの調整を行うだけだ。
俺の場合、アタッシュケースが無くなったから、ゼロから行わなくてはいけない。
勿論配慮など存在しないのが、この大会。
上等だ。天才と呼ばれる理由を見せようじゃないか。
デルフィニジンという色素を知っているだろうか。実はこの色素は植物が作り出すものだ。この色素は日光を受けると青紫色に輝く性質を持つ。2010年頃、青いバラが開発された事は遺伝子改良界隈では有名なことだろう。そして、この色素を更に変異させれば、より綺麗な青紫になる。俺に掛かれば、赤松の遺伝子を変異させることぐらい簡単だ。
そう、そしてこの色素を赤松が生成できるようにすれば……青い松を作れるのではないか?そう考えた俺は、早速行動に移した。
◆◆◆◆
一時間が経過した。ギリギリだったがデータは完成した。次は培養だ。そう、あの細胞分裂で増やすアレだ。俺は早速始める。
すると、背後に気配を感じた。振り返るとそこには埋見君が居た。
「どうですか?ロイさん、データを無くしたらしいって審査委員会が噂してましたけど……」
「ああ、大丈夫ですよ。こう見えて、私、記憶力には自信があるんですよ」
「そうなんですか!杞憂でしたね。それじゃあ、僕も培養の方に行くので頑張ってください」
「ありがとうございます」
彼が去った後、俺はまた作業に取り掛かる。
「……よし、これで完成だ」
そして更に一時間後、俺は、赤松の表皮を青く染める事に成功した。
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