第77話
京都の街中を歩く。周りを見渡せば、和服姿の人々が行き交っている。上を見上げると京都タワーの会場。古い建築方法を取り入れた巨大な五重塔が、国際盆栽大会の会場である。
「昨日話した通り大規模な公の場は苦手だから、ここでお別れだ。終わったらホテルに帰ってくれ」
シゲさんが、俺の背中を押す。俺は振り返り、シゲさんに頭を下げる。天狗はどうやら毎年恒例で参加しているらしく、先にタワーに入っているようだ。
「それじゃあ、また」
エントランスには、既に沢山の人が来ていた。受付では持ち物検査がある。俺は、アタッシュケースを預ける。円形のゲートは義体の武装を一時的に無力化させる装置だ。会場に入った瞬間、視界が開けた。広い。会場はかなり広くて、端っこが見えない。
様々な植物が所狭しと並んでいる。盆栽以外にも、様々な展示品が飾られている。例えば、大昔の土器とかだ。こんなものまで展示されているとは思わなかった。
「アタッシュケースは……っと」
周囲に圧倒されながら、一番手前のアタッシュケースを取る。
「それにしても、かなりの人数だな」
出場者、観戦者合わせて軽く5000人は超えている。茨ヶ丘でのイベントが小規模というのが分かってしまう。
「まぁ、世界で一番デカい盆栽大会ですからね」
声がした方を向くと、隣に座っていた少年が話しかけてきた。
「そうなんですか」
「ああ、僕はもう4回目の出場ですよ。あなたも出場者ですか?」
「ええ、まぁ」
「そうなんですか!!お互い頑張りましょう」
少年は嬉しそうに言う。
「ええ、そうですね」
「僕は、埋見ソウです!よろしくお願いします!」
「俺は、狭間ロイです」
「へぇ、いい名前だな!」
「ありがとうございます」
俺は話を合わせつつ、周りを見る。三日間ぶっ続けのイベントだから体力勝負だ。
◆◆◆◆
「おい、どこだよ。俺のアタッシュケース」
一人の男が辺りをギラギラと鋭い目つきで見回しながら歩いていた。スーツ姿で、身長は170cmほど。年齢は30代前半ぐらいだろうか。顔立ちは、日本人特有の黒髪と黒い瞳。そして、眼鏡を掛けている。首領に任された任務を遂行するため、盆栽大会でテロを起こそうとしている忍者である。
彼は、かなりイラついていた。理由は二つある。一つは、自分のアタッシュケースがないということ。もう一つは、ここ数日、上司に仕事を押し付けられたからだ。盆栽大会で使う、妨害機が入っている。
「なんで俺がそんなこと……くそ、あの女……」
心の中に怒りがふつふつと湧き上がる。その感情のままに歩いていると、出場者席に俺のアタッシュケースを持った、やけに顔の整った野郎が居る。大会は三日ぶっ続けで行われる。出場者の部屋で盗めば良いだろう。
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