第76話
「なあ、天狗」
「なんだァ?」
「俺さ、強くなりたいんだ」
「はは、それはいいことだぜ」
天狗は愉快に笑う。
「強くなってどうする」
「好きな人を、守りたいかな?」
「そいつはいい。応援しようじゃないか」
天狗は嬉しそうに言った。
俺はククリナイフを引き抜き、天狗に向けた。天狗は刀を鞘から抜き、構える。
一瞬の静寂の後、二人は同時に動き出した。
剣戟の音が響く。天狗はこちらの攻撃を全て避けながら、時折攻撃を仕掛けてくる。俺は必死で、隙を見つけようとする。しかし、相手は俺の動きを完全に見切っているようだ。
俺は必死で攻撃を避ける。その時、不意に視界がブレた。
何かが、俺の左肩を切り裂く。そして次の瞬間、肩に痛みが走る。天狗はニヤリと笑い、追撃を仕掛けてきた。俺は慌てて、その場から離れる。天狗は追撃を止め、煙管を取り出して一服している。
クソッ、なんだよ今の。天狗が何かしたのか? 俺は天狗の出方を伺うことにした。だが、天狗は一向に動こうとしない。
俺は攻撃が来ると思い、警戒しながら天狗を見る。しかし、天狗は相変わらず煙管を吸って動かない。
一体、何がしたいんだ……。まさか、舐めプされてる!?畜生、ムカつくぜ!! 俺は怒りに身を任せ、天狗に向けて走り出す。
天狗はゆっくりと煙を吐き、こちらを見た。
殺気、躱す。斬撃、避ける。
刀の突き、紙一重で回避する。
俺は勢いそのままに、天狗に体当たりをした。よろめいた天狗の首筋に向け、ククリナイフを振るう。
しかし、天狗は咄嵯に反応して刀で防いだ。鍔迫り合いの状態になり、睨み合う。
天狗は愉快そうに笑い、刀を押し込んでくる。俺は必死で押し返そうとするが、力が拮抗して動けない。
この野郎!!ふざけやがって!! 俺は渾身の力を込めて、天狗を吹き飛ばした。
天狗は地面に叩きつけられ、土埃が舞う。その隙に、天狗との距離を詰める。
体勢を立て直される前に、天狗の喉元に刃を突き立てる。
あと少し、あと少しの所で──
「
風圧によって吹き飛ばされる。俺は空中で体制を整え、着地する。天狗は愉快そうに笑った。俺は素早く近づき、斬りかかる。しかし、またもや風の衝撃により吹き飛ばされてしまう。
くそっ、近づけねぇ! 俺は何度も天狗に攻撃をするが、ことごとく弾かれてしまった。
「おいおい、どうしたよ」
天狗は不敵に笑う。俺は天狗に向かって駆け出し、一気に飛び上がった。
「ほぅ、空からか」
俺は天狗にククリナイフを振り下ろす。天狗は刀でそれを受け止め、反撃をしてくる。俺はそれをギリギリのところで避け、天狗の背後に回る。そして首筋に一撃を加えた。手応えアリ。しかし、天狗は平然としていた。
「あーあ、参った参った」
天狗は俺の方を見て笑っている。
「いやぁ、悪かったな」天狗は刀を鞘に納めた。
「お前の実力を見誤った。俺の負けだ」
「なんだったんですか。さっきの攻撃は……」
「ん?あれか。まぁ簡単に言えば俺の必殺技みたいなもんかな」
「そんなものがあるなら最初から使えばいいじゃないですか!」
「お前があまりに必死な形相をしてるもんだから、ついな」
「卑怯な!!」
「でもまあ、お前もだいぶ強くなったんじゃないか?」
天狗はニヤリと笑いながら言った。クソッ、悔しいな……。確かに最初の頃よりはマシになったけどさ。
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