第70話

 俺は早速、蓋を開ける。中からひんやりとした冷気が漂ってくる。


「硬えな」


 スプーンが全く刺さらない。


「どれ、貸してみぃ」


 シゲさんにアイスのカップを渡す。シゲさんの手のひらが、赤に発光する。


「ほれ」


 返されたアイスは、適度に温められ、スッとスプーンが刺さるようになった。


 さて一口。……口の中に入れると優しいバニラの風味。うん!上手い!


「お前さん、そろそろ富士山が見えるぞ」


 そう言われ、外を覗くと形のいい山が見える。富士山、これがジャポニスムの境地か……、外の風景はどんどん変わって行く。緑溢れる大地。遠くに見える大きな川。


「そろそろ着くんじゃが……」


 シゲさんが何やら歯切れが悪い。


「どうかしました?」


「いやのぅ、なんか変な匂いがするんじゃよ」


「へぇ~……香水とか?」


「いや、もっとこう本能に訴えかけるような……」


 俺の嗅覚は強化されているが、全然何も感じない。きっと気のせいだろう。


「そんな事よりも、目的地はどこです?」


「お、おう、すまん。着いたぞ。ここじゃ」

 脳内から検索し眼球にマップを開く。


 そこには【京】の文字があった。


 流石大都市、独自のネットワークは凝っているな。俺達は駅に降り立つ。


 古来から続く伝統的な作りの建造物群。おお、日本魂。シゲさん曰く、ここから歩いてホテルへ向かうらしい。しばらく歩くと立派な旅館に着いた。


 部屋に入り荷物を置く。


 ふむ、趣があるな。畳の香り。実に心地よい気分だ。俺達は一旦休憩し、夕食を食べるために街に出た。


 夜の街は明るい。様々な店が軒を連ねている。


 俺たちはその中で、割と高級そうな和食屋に入った。


 個室に入ると、女将さんがメニューを置いて去って行った。


 どれも美味そうだ。とりあえず、注文するか。


「うーん、どうしようかなぁ」

「これなんかいいんじゃないですかね」

「おお!じゃあそれにします」


 シゲさんが指差したのは角煮定食。なかなか渋いチョイスだ。


「じゃあ、俺も同じもので」

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