京都盆栽編

第69話

 三日分の着替えと下着をバックに詰める。忘れ物はないか?財布はあるか? 確認し、データの入ったアタッシュケースを持つ。そして俺は、玄関で靴を履いていた。


「ロイ、ちょっと待って」


 後ろから声が聞こえる。クロエの声だ。一体何だろう。


「ん?」

「いってらっしゃい」


 ハグされる。Oh……胸が。いい匂いがする。これは香水だろうか。


「いってきます」



 ***

 鹵獲したヘリを使って駅まで飛ばすらしい。いや頭おかしいやろ。市役所の屋上から飛ばすのだ。ヘリが飛ぶこと15分。


「いや~ヘリなんて久々に乗ったわい!」


 シゲさんが前の椅子でガハハッと豪快に笑う。現在俺たちは、東京駅ダンジョンの上空でステルス飛行している。


「ダーリン?準備は良いかしら?」

「おう!」


 ヘリの後ろのハッチが開く。空気がなだれ込んでくる。今から何するって?ヒモなしバンジーだよ!!!風がすごい勢いで顔に当たる。怖い。超怖い。シゲさんに抱きかかえられて、落下。……残念だったな。俺は修行で落下耐性がついているの──


「うおおおおおおおおおおおおお」


 シュッ、シュッ、とシゲさんの足の空砲力場により落下の衝撃が吸収されていく。


 俺達は今、新幹線に乗っている。ちなみに席は横並びだ。窓際が俺で、通路側がシゲさん。シゲさんが飲み物を買ってきてくれた。

 

 炭酸飲料コークだ。この刺激が癖になる。


 という音と共に、プルタブが開く。


「あーうま。ありがとうございます」


 シゲさんはコーヒーを飲んでいるようだ。渋い。


「ところでロイ君よ」

「はい」


「雫お嬢ちゃんとはどこまでいったんじゃ?」

「ぶふっ!!」


 口に含んでいた炭酸を盛大に吹き出してしまった。幸いにも、誰にもかかっていない。


「いきなり何を言っているんですか」

「いやのぉ、あの子はお前のことを慕っているようじゃし」


 確かにそうだが、俺と彼女はまだそういう関係ではない。


「そのうち告白しますよ」

「おいおい!腑抜けてると掻っ攫われるぞ」


 まあそうなんだが。それにしても、シゲさんが恋愛の話をするとは思わなかった。


「シゲさんこそどうなんですか」

「はぁ?俺があんな若い子相手にするとでも思ってるのか」


「いやそうじゃなくて」

「ん?ああ妻か……あいつには申し訳ない。改造で性器をチョキンとされたからな」


 ショッキングすぎるわ。シゲさんは苦笑いしながら続ける。


「俺はもう死に近いからな。何なら他に男でも作って貰っても構わんのだが」


「シゲさん。彩さんは本気で貴方を愛しているんですから、そういう事は言わないほうが良いですよ」


「そうだな。聞かなかった事にしてくれ」


「はい」


 暫しの沈黙。


「お飲み物はいかがでしょうか」


 乗務員さんが台車を押しながらこちらに来る。


「私は構わん。お前さんは?」

「あ、俺はアイスを」

「はい。ではごゆっくりどうぞ」


 新幹線名物。文化遺産のシンカンセンスゴクカタイアイスだ。何を言っているのか分からないが、俺も良くわからない。食の遺産というのはこういった謎が多い。

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