第67話

 ドン。机が揺れる。


「まだ見つからないのか!!」


 四井重工の専務が叫ぶ。


 場所は東京・品川にあるホテルの会議室。


 高級感のある調度品が並ぶその部屋は、社長や役員といった上層部が使うものだ。


 今は、四井重工の社長、四井聡志とその側近が集まっている。


 皆、険しい表情をしている。


 原因は、1人の元社員の問題だ。その男は、ロイという男だ。元は優秀な研究者だが、社長の親族に退職に追い込まれ、仕返しにいくつもの機密情報を持ち去ったのだ。そして、それを売った。


 それだけならまだよかったが、さらに厄介なことに、彼が開発したキメラは暴走して暴れ回ったのだ。幸いにも人的被害はなかったが、問題はそこではない。生物兵器が四井グループによって作られていることが世間に知れ渡ってしまったことだ。この一件で、四井グループは信用を失った。


「その件だが、茨ヶ丘という地方でキメラを使った町おこしをするという話を聞いた」


 四井会長が口を開く。この場にいる幹部たちの中には、四井会長の親戚もいる。


 だからこそ、この案件を放置できない。しかし、下手に手出しをすれば余計な火種を生むことになる。そんな状況だ。


「それについてですが、どう思いますか?」


 側近の1人が質問を投げかける。


「今まで通り、裏切り者には死を。そして、奴らの土地と利権を奪い取る。それが最善策だろう」


「そうですね。ただ、相手は未知の技術を持っています。気をつけないと」


「そこは君たちに期待しているよ」


「はい」


 彼らは、今回の作戦の成功を確信していた。彼らにとって人間とはただの道具に過ぎない。だから平然と殺せるのだ。


「しかし、番犬ベオウルフが解雇とはな……」


 社長・四井聡志は頭を抱えていた。環太平洋企業連盟リングシックスに技術提供契約を持ちかけられ、諸々をこなしていた。その間に専務に任せていた極秘の戦術部隊のリーダーが解雇されるなんて。


 彼を解雇した課長は既に処分したが、甥っ子に対して何も罰則を与えていないのは社の士気が落ちる。何らかの罰を与えよう。


 番犬ベオウルフを失ったのは痛い。彼の表向きは優秀な研究者だが、裏の顔は強化外骨格と連射式電磁銃を身につけ、小型有機機獣「ドーベルマン」を引いる産業兵士だ。彼の正体を知っているのものは社長の私と専務程度の極限られた人間だけだ。


 彼に裏の仕事を任せる時はヘルメットを被せていた。役員含めて素顔を知る人間は俺と専務だけだ。役員は彼を裏切った研究者程度に思っているが、彼に敵対するとなるとどれだけの被害が出るか分からない。やはり、戦術部隊を使って暗殺するしかないか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る