第66話
ロイは自室で休んでいた。
(借金……また増えた……)
傭兵マオを引き取ったものの、特にやることはない。ドームの穴は見なかった事にして、現実逃避する。現在マオはロイの助手として雑用をこなしている。
マオと話をすると、どうやらスラム出身で、幼い頃に両親が亡くなった為、盗みで生計を立てていたようだ。高校教育は例の国にはあるそうだが、教育を受けられる環境には無かったとのこと。
ロイは、彼の境遇を聞いて、自分の学生時代を思い出した。自分だって学校に行くお金が無かったが、何とかなった。しかし、彼みたいな貧困層はそれすら無いのだ。
彼らが依頼を受けなければこんなことになった。つくづく惜しいと思う。
マオは事務所に寝泊まりしている。勿論、風呂はドラム缶だ。着替えも必要だろう。今度服を買いに行こう。
ともかく。今日は、ようやく稲の収穫だ。俺、雫さん、マオ、アンナで田に向かう。今日は全員ツナギのような作業着だ。このツナギは、防水、防寒に優れており、非常に使い勝手が良い。
「それでは、始めましょうか」
俺は稲刈り鎌を手に取る。2時間弱の長作業。
***
稲刈りを終えた俺たちは、米を天日で乾燥させている。機械が無いため、手作業だ。集めた稲をドームまで運び、乾燥させる。
「もう嫌だ!」
俺は叫ぶ。マオがこちらを見る。
「まだ始めて1時間しか経ってないぞ」
「うるせぇ!お前はいいよな。力持ちで」
「サイバネ化してるんだから文句言うな!見てみろ雫さんとアンナを!」
「腰が痛いですわよ」
「私も〜」
2人は腰痛を訴えている。
「お二方!これを飲んでください!」
マオがドリンクを差し出す。
「……ありがとうございます」
「……いただきます」
「それは、俺が開発した疲労回復剤です!効果は抜群ですよ!」
マオは意外にも手先が器用だったので、レモネードを作らせた。これがなかなか美味しい。そして、効果もバッチリだった。
***
脱穀、選別、袋詰めは農協が全てやってくれたので楽が出来た。流石、都会の連中は違うなと思った。
「そっちの収穫はどうだい?」
「ああ、大体終わったよ」
「こっちは、あと少しで終わるところだ」
「じゃあ、みんな呼んでくるね」
そう、今回は実地での栽培。他の農家の方も協力してくれた。他ではコンバインを使っていたが、俺らは敢えて手作業で行った。これも実験の一環である。
「終わったぜ」
シゲさんがやってきた。
「ご苦労様です」
「いや、お前さんは働きすぎだよ。ちゃんと休め。疲れてるだろう」
「ええ、まぁ」
俺は苦笑いする。確かに疲れているが、楽しいのだ。
「それで、成果はどうですか?」
「上々。上手くいきそうだ」
「良かった」
「俺らも手伝うよ」
マオが話しかけてくる。
「じゃあ、一緒にやりますか」
それから、夜まで作業をした。マオの飲み込みは早く、みるみると腕を上げていった。
「マオさんって、スラム出身なんですよね」
「そうだけど」
「何かやりたいこととかないんですか?夢とか」
俺は、ふと思い立ったことを聞いてみた。
「……特に。ただ、金さえあれば何でも出来るから」
なるほど。やはり世の中お金なのだ。お金があれば大抵のものは手に入るし、人だって雇える。マオには、何が出来るだろうか。
それはともかく、真米の生産が順調が終わったので、お金が貰える。護衛費の半分。まだ借金は残っている。頑張れ、俺。
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