第65話
「どうしたんですか?その人」
「ああ何かな。外に戦車が居たから、制圧してきた。そのついで」
シゲさんが男を一人拾ってきた。見たところ高いランクの義体を付けている。多分義体化手術を受けた傭兵だろう。
「しかし、お前さん、どこかに恨まれるようなことでもあったのか?」
俺は唸る。前の職場を始め、ギャングや企業など、割と身に覚えがある。
「正直、多すぎてどこだか」
ロイはため息をつく。
「まあいいさ。おい、ガキ。お前らは何が目的だったんだ?」
「俺らはウェスタ共和国の企業だ。ロイ博士のキメラ研究を白紙にしろと原生至上主義者に言われてな。俺らだってそんなことはしたくなかった。だが、金で雇われちまった以上、従わざるを得なかったんだよ。悪かったな。どうせ俺はもう長くない。殺してくれ」
「うーーーん。取り敢えず飯にしますか」
風穴が開いたドームの壁を見なかった事にしてロイは事務所のキッチンに向かう。
***
暖かいコーヒーとレーションが出される。
「こんなものしか今は無いんですが」
レーションのフィルムを破り、中のビスケットの様なものを食べる。固く、小麦の味がダイレクトに伝わる。緊張が途切れたのか、コーヒーとを持つ手が震えている。
「上手い。」
「ありがとうございます。ところで、あなたはこれからどうするつもりですか?」
「どうするって何をだ」
「あなたの身柄ですよ。市長に連絡しておきましたので、しばらくしたら迎えが来ると思います。それまでの間、ここで過ごしますか?それとも、元いた場所に戻りたいですか?」
俺は黙る。戻ろうにも、失敗した身だ。会社も全滅。恐らく家族は俺が死んだと思い込んでいるだろう。戻る意味がない。俺は暫く考える。そして、結論を出した。
どうせ死んだと思ってるし、今更戻っても問題ないだろうと。そう考えた俺の考えは間違っていなかった。
***
「ロイ君大丈夫かね!」
市長が駆け込んでくる。
「それで、こいつがテロリストか」
市長が懐から銃を取り出す。
「ちょ!大丈夫ですって。少し待ってくださいよ」
ロイは必死に説得する。取り敢えず、二人にお茶を出し、席に着く。ロイ、市長、シゲ、傭兵の四人が席に着く。この狭い部屋では、全員が座るとかなり窮屈だ。
全員の視線が自分に集まる。落ち着かない気分になる。
ロイは覚悟を決め、話し始める。
「早い話襲われました。そして、彼がテロリスト、えー名前は?」
「……マオだ」
皆んな沈黙している。無理もない。
「そのテロリストは殺した方が良い」
市長が口を開く。
「まあ、確かにお前さんは命を狙われた訳だしな。別にいいんじゃないか?」
シゲも頷く。
「俺は、死にたくない!!隊長たちのおかげでこうして生きている。その恩を仇で返すわけにはいかない!頼む!どうか助けてくれ!」
男は土下座をして懇願してくる。流石にそこまでされると心苦しいものがある。
「わかった。俺が引き取ります。彼を助手にします。だから許してあげてください」
「いや、でもなぁ」
シゲは渋る。
「彼にはまだ利用価値があるはずです。」
「うーん」
「じゃあこうしよう。マオさんはロイ君のチームに入るんだ。そこでロイ君と一緒に研究を行う。勿論、給料を払う」
「俺はそんな金は受け取れない」
「これは命令だよ」
市長の顔つきが変わる。シゲさんも同じだ。本気らしい。
「わかりました」
「ただし、条件があります」
「……何ですか?」
「安全が確認されるまで、このドームから基本的に出さない事」
「わかった。俺はここで生活する」
こうして、町おこし推進部実働班に新たな仲間が加わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます