第61話

 翌日、田んぼの稲が少しばかり欠けているのに気が付いた。


「あ~雀に食べられてますね」

「どうしますか?駆除剤撒くとか」

「農薬は使いたくないんですよねぇ」

「ロイさんの気持ちも分かりますけど、このままだと、収穫量が減りますよ」

「仕方ありません。やりましょうか」



「案山子なんてどうでしょう」

「カカシですか?」

「ええ、鳥よけの奴」

「なるほど、やってみる価値はあると思います」

「じゃあ、早速作りに行きましょう」


 という事で、商店街のジャンク屋にやって来た。「すみませーん」

 奥から店主が出てくる。

「何だいアンタ。女を侍らせて、枯れちまった婆に当てつけかい?」

「違います。ちょっと案山子とか売っていないかなと」「ああ、それならそこにあるだろう」

 そういって、店の奥からマネキンのようなアンドロイドを持ってくる。

「これ、いくらぐらいするんですかね」

「3000だな」

「安ッ!!」

「今時、そんなもんさ。ほら、持って行け」

「ありがとうございます!」

「ふんっ!せいぜい頑張りな」

「では、また来ますね」

 俺は頭を下げて店を後にした。


 ***


「ロイさん、その格好で行くつもりですか?」

 雫さんに言われて自分の服装を見る。ジーパンにTシャツ、サンダルだ。

「何か変でしょうか」

「いえ、そういう訳では無いのですが、農作業をするにはあまり向いていないというか……」

「そうですね。確かに」

「それに、泥だらけになるかもしれませんし。着替えた方が良いかと……」

「だが、断るッ!!」

「ええ!?」

「だって、この服の方が動きやすいですし」

「でも、汚れちゃいますよ」

「大丈夫ですよ。こう見えても結構頑丈なんで」

 案の定、脚は泥でぐしゃぐしゃになった。

「いや~、やっぱり農家は最高ですね」

「そう言って貰えると嬉しいですけど、もう二度とこんな事しないでくださいね」

「はい、肝に命じておきます。でも、楽しかったですよ」


 そうして、三人で話していると一台の軽トラックが止まる。


「おうお前ら!!稲づくりか」

「雫ちゃん、クロエちゃん、それにロイちゃんヤッホー」


 彩さんとシゲさんだ。


「こんにちは。二人ともどうしてここに?」


 雫さんが聞く。


「愛しの夫とデートよ♡」

「いや、まあ機獣が出たとの連絡があってな。特に異常はなかったが」


 彩さんが冗談を言い、シゲさんが真面目に答える。


「なるほど。お疲れ様です」


「あ、今度ロイちゃんも護身術習わない?」

「そうだよ。ロイも受けたらいいじゃないの?」


 彩さんとクロエさんが勧誘してくる。


「うーん、そうだなぁ。でも俺、別に強くなりたいわけじゃ──」

「じゃあ次の日曜日、伺いますね」

 彩さんの有無を言わさない圧。

「はい……」

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