第58話

 Valhallaは塹壕ゲーとも呼ばれ、とにかく遮蔽物の多いフィールドである。そして、敵味方共に遠距離からの狙撃を得意とするものが多い。その為に、前線で撃ち合いになることが多い。


「ロイ君、こっちに!」


 クロエさんに呼ばれて隠れる。


「ここは敵の数が少ないから安全よ」

「ありがとうございます」


 人種間戦争と言いつつ、銃撃戦が基本。接近戦では機械や亜人の方が強い。バランスが取れていないと思われるが、功労金額が倍という美味しい報酬の為、多くのプレイヤーが参戦する。この功労金とは派閥ごとに世界の財閥が功績ごとに現実でも価値があるもの、お金や企業の製品をくれるというもの。


 銃声。大砲の爆撃音。土煙。硝煙の臭い。

 そんなものが混ざり合って、鼻につく。

 目の前には巨大な戦車があった。中径戦車、亜人どもの平均的な戦車だ。

 それは、こちらに向かって砲撃してくる。


「突撃ぃ!!!!!」


 5部隊が一気に突撃する。重装備、防御系スキル持ちで固めた部隊。



 俺とクロエさんは、随伴兵を暗殺していく。俺のスキルセットは透明化+エンドレス+ククリナイフの暗殺専用だ。クロエさんのスキル構成は、加速、超加速、一点突破などスピード特化型。


「クロエさん、そろそろ行きましょう」

「そうね、派手に暴れましょうか」


 クロエさんが先行し、俺はその後に続く。


 流血が舞い。野蛮な亜人どもは血肉を撒き散らす。


 サイと虎の亜人が立ちはだかる。


「そこをどけぇい!!我らの邪魔をするなぁ!!!」


 クロエさんは居合斬りで一閃。サイの分厚い皮膚を切り裂く。


「ぐわっ!?貴様、よくもやってくれたな!許さんぞぉ!!!」


 亜人は激昂するが、クロエさんは冷静に対処。


「遅い」


 俺は亜人の心臓を貫いて仕留める。


「おのれ人間め……死ねぇ!!」

「うるさいな……」


 俺は横薙ぎの一振りで、首を切り落とす。


「さすがロイ君、安定の300位だね。話に聞いていたよりも強いじゃないか」


 クロエさんが褒めてくる。


「いえ、まだまだですよ。それにしても、クロエさんはすごいですね。世界ランキング17位なんて」


 侍の強さは異常だ。ランキング上位者は基本的に対人戦に強い。彼女の抜刀術と動体視力は異常だ。


「シゲさんにご教授してもらってますからね」

「あのシゲさんですか?」

「はい、彼は元軍人ですから、戦い方を教えてもらっているんです」

「へえ、そうなんだ……」


 嘘だろ。軍式の戦闘術とか教えているのか?ヤバすぎないか?


「ちなみに、その、なんといいますか……」

「はい?」

「ロイ君は、私より強いのかなーって……」

「えっと……」

「やっぱり、古い価値観だと強い男の人が頼りがいがあると思いますが」

「そう言われましても……」


 どう答えたものだろうか……。とりあえず、話を逸らす。味方も若干の前進が出来ている。塹壕に陣取っている敵は徐々に数を減らしていく。


 クロエさんが言う。


 確かに、俺も男だし強い方がいいだろうけど、別に強さが全てではないと思う。例えば、俺がクロエさんに惚れることはあるかもしれないが、クロエさんに俺に惚れさせる自信はない。

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