第56話 閑話

「お~ほっほっほ。義体化してない人間は虫けらですわ~~~」


 射出された銃弾達が破落戸どもを潰れたトマトに変えていく。8ミリ口径のアサルトライフル。旧時代の骨董品だが、フルオート射撃は驚異的だ。


 そして、なによりこの女にはそれが似合うのだ。高笑いと共に、弾丸が尽きるまで撃ち続ける。硝煙が晴れると10人以上の死体。彼らは総じてチーズのように穴だらけ。その中心に彼女は立っていた。硝煙と血で汚れてなお美しい。それはまるで女神。彼女は笑みを浮かべたまま、こちらへ振り向く。俺は苦笑いしながら彼女に近づく。


「ハハハ、トリガーハッピーかよ。」


 そう言うと、彼女は不機嫌そうな顔になる。彼女が俺の首根っこを掴む。そのまま顔を近づけてくる。至近距離で見る彼女の瞳は吸い込まれそうになるほど美しかった。思わず見惚れていると、彼女は口を開く。そして言った。


「わたくしは10人殺りましたが、愚民の貴方はたった三人だけですの?貴方、本当に無能ですね」


「…………」


「なんでそんな目で見るんですの!? わたくしが嫌いなんですの?」


「いや、べつに……」


 草薙武装商社の最新モデル「ウィーニス2300」


 両足を最高性能の義足に拡張した少女。彼女は祝福遺伝子操作された人間ジーンリッチ。均整の整った顔立ち、完璧なプロポーション、優れた頭脳が生まれながらにして素晴らしい人生が確定された選ばれた人間。二十四世紀では珍しいお嬢様である。そんな恵まれた存在の少女だが、今は眉間にシワを寄せて不愉快そうな表情をしている。


 その理由は幾つかあった。しばらく時間を遡ろう。


 ***


「アメリア・オルソン。貴女を学園から追放する。これは決定事項だ。反論は一切認めない」


「学園長!!どうしてですの!?わたくしはこの学園に貢献してきました!何故なら……」


 そこまで言って言葉を詰まらせる。


 この世界は科学技術の時代。人々は高度な技術文明の中で生きている。しかし、それ故に人々は堕落していた。犯罪の増加、環境汚染、貧困の拡大など……。それらは全て社会構造そのものの問題だった。それを解決するため優秀な若者を集め、教育を施す場所があった。それが国立総合軍事学園。通称:軍学学園。


 そこで教育を受けた者は軍人として国のために働くことを義務付けられている。そして、その学園の生徒の中でも優秀な者だけが入れる特別クラスがある。そのクラスの生徒の一人がアメリアであった。


「度重なる差別発言に暴力行為。貴女には失望しました。これからは市中で頑張ってください」



「待ってください!わたくしはただ、一般常識を教えていただけなのに……!」

「これ以上は時間の無駄です。さようなら」


 アメリアは学園を追い出された。彼女は優秀すぎたのだ。どんなことでもそつなくこなしてしまう。そして、彼女は自分が他人より優れていることに気づいてしまった。


 それから彼女は変わった。傲慢になり、自分勝手になった。自分の思い通りにいかないことがあると、すぐにヒステリックを起こし、周りに当たり散らすようになった。


 当然、周りの人間は彼女を疎ましく思うようになる。そして、彼女は孤立していった。



 俺がこうして彼女と行動しているのはまた別の話だが。


「あーーもう思い出しただけでイラつく。あのクソアマ!いつか一発殴ってやるわ!」

「やめとけよ」

「うるさい!」


 彼女はそう言うと、俺を睨みつける。


「貴方もどうせ私を馬鹿にしているんでしょう! 」


 レンタルルームで、愚痴る。


「そんなことないよ」

「それより、早く稼いで、アメリカの家に帰りますわ!」


 そうしてベットで寄り添って寝る。冷たい義足を絡ませて、暖かい体温を感じあう。

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