第55話

「ただいま」


 家に帰ると、お酒の匂いと共にクロエが出迎える。


「おかえり〜どこ行ってたのぉ〜」

 完全に酔っている。


「ちょっと雫さんとお酒を飲んできただけだよ」

「へぇー。そういえば、最近距離近いじゃん?まさか恋人?ねぇ、もしかして、恋仲になっちゃったわけ?」

「いや、違うけど……」


 ああ中々この人も酔うと厄介なキャラなんだと感じながらロイが答える。


「じゃあ、なんであんなに近いの?普通の距離じゃないんだけど?」

「え、まぁそれは、雫さんが可愛いからだろ」

「そんなこと言っとけば許されると思ってんじゃないわよ。あの子はロイくんのこと狙ってんだよ!」


 クロエは少し怒っているようだ。


「そんな事言われても、、、」


 ロイは困り果てている。


「だいたい、ロイくんはさ、もっと自覚をだね!」

「ごめん、もう寝かせてくれ」


 ロイはそう言って逃げるように自室に向かった。この二人は一年間屋根の下で一緒に暮らしてたのだ。いつの間にか敬語は解けていた。しかし、二人は男女の仲と言うよりも普通の姉弟のような関係になっていた。まだロイにとって、雫は大事な人ではあるし可愛い女性だと分かっているが恋愛対象としては見ていない。それは雫も同じであった。  


 二階に上がったロイはvuにログインする。勿論訪れるのは「黒の輪」実家のような安心感。実情が現実と同じ無法地帯と知っているロイは心の拠り所としている場所だ。しかし、最近は研究に追われログイン時間が短くなってきていた。


 暖かいオレンジのライトが照らす雰囲気の良いバー。扉を開けるとカランコロンと心地の良いドアベルの音。


「ああ、ロイさんお帰りなさい」


 マスターが一拍置いて出迎えてくれる。ここは、とある電脳世界にある隠れた名店。マスターは寡黙な初老の男性。いつも笑顔を絶やさない素敵な紳士である。そして、彼の作る料理はどれも絶品であり、またお酒との相性は抜群である。お酒の種類も豊かで、ロイはこの店を非常に気に入っていた。カウンターに座ると何も言わず上手いウィスキーが提供される。最高だ。


「ロイっちーーー!」


 いきなり声をかけられ、ビクッとする。


「なんだ、エミリか」


 彼女は電脳世界で有名人である。バウンティハンターとして名を馳せており、顔は広く、ファンも多い。そして、彼女の二つ名は〈魔弾〉。銃を愛す女傑である。


「今日は奢るよーーー!好きなもの頼んで!」


 彼女はそう言うとメニュー表を渡される。そこには、高級そうな名前がズラリと並んでいた。ロイはとりあえず一番安いものを注文する。すると、すぐに目の前に出されるグラスに入った透明な液体。エミリは赤ワインを頼む。


 こうして日常は消費されていくのだ。

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