真米編
第54話
田植えが終わった。
「はぁー疲れました」
日が暮れ始め、夕方になった。雫はぐったりしている。それもそのはず、今日一日ずっと苗を植え続けていたのだから。
「そうですね。しかし、農業はなかなか楽しいものですね。そうだ雫さん今日の夜って空いてますか?」
「はい。空いてますよ?」
「お酒でも飲みませんか?」
「行きましょう!」
雫は即答した。
***
居酒屋で乾杯をする。
「「かんぱーい!!」」
キンッとコップの音が響く。
「ふぅ、この一杯の為に生きているのかもしれませんね」
「大袈裟ですね。まだ一口目じゃないですか」
雫はそう言いながらも嬉しそうである。
「では、何を食べますか?」
「そうですねー私は……焼き鳥とかどうでしょう」
「いいですね!私もそれが食べたかったんですよ」
「じゃ、頼みますか」
そう、ここは前の大会で焼き鳥を出した店である。
「すみませーん。鶏皮串一つと砂肝一本ください」
「はい、かしこまりました。」
しばらくすると、頼んだ料理が届く。
「「いただきます!」」
まずは塩のついた砂肝から食べる。コリッコリッとした食感がたまらない。噛めば噛むほど味が出てくる。
次は、鶏皮だ。
「美味しい!これは癖になりますね!」
「そうですね、この一体感と旨みが素晴らしいですね」
「次は何にしますか?」
「うーん、カニカマのサラダなんてどうでしょう」
「いいですね。それでは注文します」
しばらくして注文したものが来る。
「「いただきます!」」
柔らかい感触。そして、ほのかに香る磯の香り。シャキシャキと聞こえる心地よい咀嚼音。気づけばあっという間に完食していた。
2303年、海洋汚染によって蟹は大きく数を減らし、養殖に成功した研究所などが、研究用に使われており、食用としての価値は殆ど失った。
だが、日本には例の食材がある。
インスタントラーメン、レトルトカレーと合わせて「戦後の食品の三大発明」と呼ばれることがあるアレ。海外ですり身に加工され、冷凍すり身として輸入されたスケトウダラを主原料とする場合が多いアレ。
そう、カニカマだ。
カニカマは現代の錬金術である。
カニを使わずカニを夢見る日本固有の高度な技術。海外でも高い評価を得るその技術探究にはゴールなどない。
それは過去の産物か、否。カニを使わないカニを夢見た研究者は遂に到達点に辿り着いた。そのカニカマへの熱意は200年後の世界でも埋もれなかったのである。
二人は会計を済ませると帰路につく。ロイは雫を車で送る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます