第47話

「すまない。待たせた」


 白の輪の個室で市長と会議する。ハッカーが見つかったそうだ。


「いえ、全然大丈夫ですよ」


「まず、君の知り合いの優秀なハッカーを用意した」


 俺の知り合い?一体誰の事だ? 思い当たる節がない。


 個室の入口の襖がスーッと開く。全身を黒い革製のスーツで覆い、顔にはサングラスを掛けている紳士。



「……マスター?」

「†M4☆SOUマスター・ソウ†と呼んでくれ」


いや、どこからどう見てもマスターだ。


「……マスター?」

「恥ずかしいから聞き直さないでくれ」


「……マスター?」

「若気の至りで付けたハンドルネームなんだ。……止めてくれ」


 本当にやめて欲しいらしい。


 喫茶店「黒の輪」のマスター、榛原宗一郎は伝説のハッカー†M4☆SOUマスター・ソウ†である。


 数々の凶悪事件に関与し、各国の政府に雇われたり、大手の大企業からも依頼がある。彼は多額の報酬を要求し、依頼内容によってはクライアントの情報を抜き取ったり、改竄したりする。


 その行動原理は一切不明。しかし、腕は確かであり軍用クラスの攻性防壁アイスも片手間で突破できる。一日中vuに居る事と楽々とハッキングする姿から「俳人ハイカー」と呼ばれている。彼の伝説は数多く残されている。電脳世界vuで多くの功績を残している。


 ある依頼を区切りに足を洗ったようで、行方不明とされていた。そんな彼が喫茶店を営んでいるという、この情報は最重要機密である。


 喫茶室で彼と対面する。


「じゃあ、仕事の話をしようか」

「はい、よろしくお願いします」


 マスターが煙草に火を付け、煙を吸う。そして、口から紫の煙を出す。


「まず、今回の仕事の内容はこのデータを盗むことだ。大図書館ライブラリには行ったことはあるか?あれは、ワールド系ブラウザの一つなんだが、vuと一緒だな。ハックするには色々面倒くさい手順を踏まなければいけない」


「なるほど」


「失敗すれば攻性防壁アイスに脳を焼かれて死ぬ。非常に難しい仕事だ。やるなら私も本気で組まなければいけない」


「覚悟は出来てます」


「出来ればあと一人、プログラムを組める人が居たほうが良い」


 俺と市長は黙る。ん。待て、暇そうにしているプログラムを組める人材はもう一人いるじゃないか。


「心当たり、あります」


「奇遇だなロイ君、だが説得できるか?」


 市長は分かったらしい。


 数秒後、マスターも同じ人物に思い当たる。


「お、お二人とも?まさか……あの方とは言わないですよね」


「残念だったな、そのまさかだ」

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