第46話 閑話 

 猥雑なピンクネオンの通りを下る。ここは2303年東京某所、メカニカルな娼婦が一夜の快楽を提供する一角。誰かがここをピンク街と呼び始めた。


 男どもは浮足立ち、ピンク色の誘蛾燈に引き寄せられるように右に行ったり、左に行ったり、危なげな様子で通りを歩く。


 日々の不安や鬱憤を精液と一緒に出すのか、店から出た男はすっきりした表情で通りを歩く。


 女は通りを歩く男を引き入れようと、魅力的な肢体を晒し、豊満な胸を強調して誘う。煽情的なファッション。男たちが靡かれる。


 セックス、ドラッグ、ロックンロール。


 1970年代アメリカの再来か、そんな大昔の話この際どうでもいい。暴力とギャング、超資本主義と大企業。そんな理不尽の隙間を通り抜け、この街は息をしている。


 ここでは質の良い快楽を追求する。電子ドラッグをキメたセックスは軽蔑の対象である。



 この世界の人間は二種類しかいない。良質なセックスをする人間としない人間だ。それ以外はクズだ。


 ピンク街にはルールがある。


 それは単純明快。性行為を行う際は相手の同意を得ること。それだけだ。合意のない性交渉はレイプであり、強姦罪が適用される。まあ大戦前の陳腐な法律だがここじゃ絶対なルールだ。破れば翌日には存在が綺麗さっぱり無くなるのだ。昨日も側の海岸で首のない死体が打ち上がったと自警団が大騒ぎ。


 つまりここで言うところの質とは、相手を思いやる気持ちの事を指す。それが出来なければそもそも相手にされない。また客層も選んでいる。この界隈に似つかわしくない紳士淑女はお断り。


 怪しい暗さと独特の香り。自動ドアが開き、まず目に入るのは巨大なモニター。そこには俺好みの顔をした女が映っている。画面の中で女が絶頂を迎える。


 顔も体つきも俺の好みだ。


「あらぁ?今日は随分早いじゃない」


 声をかけられ振り向くと、派手な化粧の女がいた。彼女は俺より少し背が高く、長い金髪に赤い口紅がよく似合っている。


「ああ、ちょっとね」


 私は適当に返事をして、パネルから自分の好みを探し始める。


「ねぇ、たまにはあたしと遊ばない?」


 そう言って女は俺の腕にしがみついてきた。

 豊満な胸を押し当てられ思わずドキッとする。だが俺は知っている。彼女の名前はサラ・リリン。彼女がここにいるということは、また何かやらかしたのだ。この店で働いている女たちは皆どこかしらおかしい。

 彼女もその一人だ。


「新人を発掘しようかな、ってね」


「サービスするわよ。」


「遠慮しておくよ。あんまり興味がないんだ」


「冷たいこと言わないでぇ」


 腕を掴まれ引っ張られる。このままだと流されてしまう。


「悪いけど、本当に興味が無いんだよ」


 彼女の手を優しく解きながら言った。

 すると彼女は残念そうな顔をして、数秒の間。キスをしてきた。軽いものだが、俺をその気にさせるには十分な感触だった。


「……わかった、指名しよう。それでいいかい?」


「ええ、もちろん!」


 彼女は笑顔になり、俺の手を引いて店の奥へと入っていった。



◆◆作者より◆◆

書籍化ください……

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