第40話

 俺は限界を迎えていた。サバイバルを始め、大量の理不尽な課題をクリアしていた。何なんだよ「お婿さん最強筋トレ!!スペシャルトレーニング」って。


 大体一年くらいずっと電脳世界の中に入っていただろう。お陰で英語、中華汎語もペラペラだ。これならvuでもどこに行ってもやっていけるな!!


「はあ……」


 この一年間。ひたすら無数のデータと戦った。俺の体はボロボロになっていた。



 電脳世界では食事も睡眠も要らない。だからといって戦い続けて良いわけではないだろ。


 学習データ知ってんぞ?あれ鬼畜ゲーのラスボスだろ?「手が六つの金剛力士像に無手で勝て!」って二度とするか!!!


「お主大丈夫か?」

「ええ、まあ。一応生きてますよクソガキ殴ってやる


 跳ね起きる。八尾が目の前にいる。俺がこの部屋にきた時、丁度彼女は帰ってきたようだ。


「ふむ、ここまでやって生きているとはな。ところでこの世界は大体400倍の速度で進んでいる。つまり、お主が倒れてから一日しかたっていないという事だ」


「つまり?」

「早く起きてお嫁さんに会って、成長した姿を見せてこい。」


「いいんですか?」


「ああ。もうすでにお主は彼女に見合う最低限の男にはなっただろう。ほい」


 瞬息の突きを避ける。はっはっはっは!高速長鼻ジャブ象さんに比べたら、遅すぎるぞ!!


「これで目が覚めただろう。行ってこい。出口はここだ」


 扉を開ける。


 ───目を開ける。見覚えのある天井だ。一年ぶり、いや訂正しよう、一日ぶりだ。俺はベッドから降りる。

 

部屋の隅を見ると、雫がいた。


 彼女は泣いていた。

「……ごめんなさい。八尾様に逆らえなくて……」


 涙を拭いながら、雫は言う。


「そんな事はどうでもいいですよ」


「だって、ロイさんが熊の所行ったとき死んじゃったと思ったら怖くて、寂しくて。それに私はあなたを利用しようとして……、それで……」


「いいんですよ」


 そっと肩に手を置く。


「コーヒーでも飲んで、忘れましょう」


 雫を泣かせたのは許さないが、「女性を惚れさせるテクニック300選」でこういう時の対処法も教わったから相殺しよう。


 ドアを開け、シャワールームとマスターの部屋を過ぎ、階段から一階に降りる。


 マスターと市長がカウンターで話をしている。


「お目覚めですね、ロイさん」

「はい、今戻りました」


「ロイくん、うちの娘が悪いね」

「いえ気にしてないです。それより聞きたい事があるんですが、八尾イカれ野郎って一体何者なんですか?」


 話を切り出す。しかし二人は無言だ。


「その話をするにはな、まずはこの町の歴史と、とある研究について話さなければいけない。長い話になるな。マスター、コーヒーを出してくれ」


 マスターが静かにコーヒーを用意する。焙煎された豆の匂いが鼻腔を刺激する。


「じゃあ、話し始めようか。まずは、この町の起源からだ」


 そう言って市長は、この街の隠された歴史について語り始める。

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