修行編

第34話

 ロイは悩んでいた(三回目)。次のキメラについて考えていると徐々に迷い込んだように考えがまとまらなくなっていく。


 普段はもっとポンポン新しいアイデアが思いつくのだが、なかなか上手く行かない。海鮮系。海鮮系。


「次は何を作ろうか。というか何が求められているんだ」


 研究室と事務所を行ったり来たり、ソファに寝たり水筒を意味もなく振ったり奇行を繰り返す。


 俺は依頼通りにキメラを作るのは得意だが、自分から作るとなると苦手だ。何かきっかけさえ掴めれば簡単に思いつくのに……


「いや、でも取り敢えず20人くらい新しく移住者が決まったらしいから、取り敢えずキメラ開発はゆっくりでも良いって言われているんだよな」


 ソファーに寝て、天井を見上げている。


「あーーわかんねぇ!」


 ボヤいても生粋の性格は変わらない。ロイは数える程度しか命のやり取りに関わったことがない。幸か不幸か、この世界サイバーパンクで平和に暮らしてきた。


 そのせいで普通の人が持っている決断力というものもロイは持ち合わせていなかった。お陰で熊に対して説得を試みようとする始末。


「そう!食肉はすべてを解決する」


 研究室からフリーザーパックされている肉を取り出す。


「コケモモ♪コケモモ♪」


 軽い足取りで湯煎し、肉を温める。


「あち、あち」


 熱いパックにナイフを通し、肉を出す。


「油淋鶏は上手いよな!」


 オカズだけで、腹を満たしていくが、2303年、割と食文化は破綻しているので問題ない。


「はぁ〜〜」


 ため息をつく。何か、重大な決断をすれば多少は変わるだろう、と本人は思っているが残念ながらそういう機会に恵まれていなかったのだ。


 通話がかかってくる。


 コール音と同時に反応する。網膜に通話中のマークがポップアップする。



「はい」


『もしもし。今どこですか』


「雫さん、こんにちは。今は研究所のリビングで寛いでいますよ」


『ちょっと至急で白の輪に来てもらえませんか』


「え?何かあったんですか?」


『すみません。ここでは話せません』


 電話が切れる。ロイは数秒その場に固まる。


 しばらくして白衣を脱ぎ、部屋を消灯する。その後すぐに支度をして研究所を出る。


 車に乗り込む。


 何かあったのか、緊急の様子だ。急いで白の輪に向かう。


 到着したが不気味な静けさが漂う。駐車場には車が一台もない。


 車から離れる。ドアを開ける、カランコロンとドアベルがなる。


「誰かいますか?雫さん?マスター?」


 返事はない。


 店内に入るといつも通りコーヒー豆の良い香りが漂ってくる。


 中には雫さんが居た。カウンター席に座っている。


「雫さん、マスター達はいないんですか?それにしても、こんな暗い所にいるなんて珍しいですね」


 雫さんの隣に座る。


「雫さん?」


 雫さんがこちらを向く。


「ロイさん、すみません。八尾様の言う事は聞かなければならないんです」



 首に鋭い痛みを感じる。注射針?!



 徐々に風景が歪んでいく。



 瞼が俺の意志を無視して閉じていく。



「ごめんなさい。ロイさん」



 そこで、意識は──途切れた。

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