第33話 閑話?
「アンナ、本当に一人暮らしが出来るのかい?パパは心配だよ」
「大丈夫!あの町は今後確実に世界を変える都市になるわ!!この最高の美食家、アンナ・リリエンクローンは確信したわ!あのキメラ料理は革命を起こすわ!」
「そうか。お前がそこまで言うのならパパは信じるよ。でも、無理だけはしないでくれ。お金の事は今まで通り気にしないでくれ」
娘を抱きしめる父親。その顔はとても悲しそうだ。父親は娘の背中を押した。少女はその足取りを止めることなく、一歩ずつ前に進む。
彼女の目に映るのは、新たな食材への好奇心だけだった。彼女にとって、食とは生きるための行為ではなく、楽しむものだったのだ。
ここは一夜で誰もが成り上がれる町、ラスベガス。そこで、一人の少女が超高層ビルの最上階で鼻歌を歌いながら荷造りしている。
少女の名前は、アンナ・リリエンクローン。
長い金髪をポニーテールにしており、大きな瞳からは強い意志を感じる。両足は白亜で滑らかな義足だ。
「さあ行きましょう!茨ヶ丘へ!!」
***
「私はこの人生何十年この国に尽くしてきた、そうだろ?」
「は、はい」
私は額の汗が止まらない。
「私はな、少し疲れてしまったようだ」
目の前にいるこの男、この国のトップである大統領は最近いつもこんな話をする。
先の戦争の英雄である彼がどうして突然このような弱音を吐き始めたのか、私には理解できなかった。
「大統領閣下、一体どうなされたのですか?」
「なあ、君は私のことを英雄だとよく言ってくれるね」
「えっ、まあ、そうですね」
「だが、私はもう限界なんだ」
「どういうことでしょうか」
「この国を良くしようと戦争にも出兵し、今では大統領だ。しかし、この国を見てくれ」
大統領は執務の為の机からウイスキーを取り出し、グラスに注ぐ。
「資本主義によって国民の格差は取返しの付かない事になっている。街では電子ドラッグが蔓延し、暴力事件が多発している」
「しかし、それは今始まったことでは」
大統領はグラスを一気に煽る。
「ああ、そうかもしれない。だけどね、もういいんだ。私が死んでも次の大統領がこの腐った国を立て直すだろう」
「何を仰っているんですか!」
「この前バーに行った時なんて最悪だった、白人至上主義者の黒人が酔い潰れていた。奴らは私を知らなかった。こんなに頑張ってこれじゃあ、酷い仕打ちだよ。君だってそう思うだろ?」
「それは……しかし、貴方はこの国の希望です。そんな簡単に諦めないでください」
「君にはわからないんだよ!この国は、アメリカは変わりつつある。それは良いことだ。だが、もしかしたら私は必要ないのかもしれない」
「そんなことはありません」
「いいや、あるね。この前の戦争で私は多くの兵士を殺した。そして戦争が終わったら今度は平和のための活動に力を入れてきた」
「それは素晴らしいです」
「しかしね、君の言うように本当にこの国が変わる時がくるとしたら、今の私はただの老人だ」
「そんな……」
「だからね、そろそろ引退しようと思っている」
「ちょっと待って下さい、まだ早いですよ」
「いいや、遅いくらいだ。このままでは、いつまで経ってもこの国……いや私が変わらない気がしてね」
そういって、大統領が私の肩に手を置く。
「君がこの国を変えてくれ、君が反対すると思ったからもう既に田舎暮らしをする準備は出来ている。引継ぎの書類にも署名済みだ」
「……わかりました。長きに渡るお勤め、ご苦労様でした」
私は大統領と硬い握手をする。これはただの約束ではない。男同士の絆だ。大統領、必ずこの国を変えて見せます。
「それで大統領。どちらに行くのですか?」
窓を見ていた大統領は振り向く。
「極東、第二の戦勝国。日本さ。」
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