第31話

「いらっしゃいませ。手羽先と大根煮ですね」

「ああ、頼むよ」

「ありがとうございます」


 ロイは注文された品を持っていく。司会の仕事が無くなり手持ち無沙汰になってしまったため、何故か配膳を手伝わされている。


「お待たせいたしました。こちらが『手羽先と大根煮』になります」


 男は早速箸を割り、手羽先に手を伸ばした。まずは大根を食べるようだ。口の中に大根が入っていく。男の表情が変わる。


「うまい……。なんだこれは、こんなの食べたことがない……」


 次は手羽先を取り、肉だけ食べる。


「これも……最高だ。なんだこれ、なんで大根の味が染み込んでいる?それに肉も……うまい」


 レモンスカッシュを手に取り一気に煽る。


 強烈な果実感、強い酸味、その中にある添えられた確かな甘さ。


 男の目に涙が浮かぶ。そして、手羽先を一気に食べ尽くした。


***


「『焼き鳥セット』ですね。こちらはタレ、塩どちらにいたしましょうか」


「塩で」


「かしこまりました。少々お待ち下さい」


「おう」


「こちらが、『焼き鳥セット』です」


「ほう、うまそうだな」


「ありがとうございます」


「ところで兄ちゃん」


「はい」


「あんたも食わないのか?」


「えっ」


「俺にばっかり構ってないであんたが食べてもいいんじゃないか」


「そうですね。では少し頂きますね」


「おう」


余っている肉にかぶりつく。


「美味しい……」


「そうか、よかったぜ。じゃあ、俺は食ったら帰るわ。ありがとよ」


 男は去っていった。ロイの接客も一段落する。ステージ前には人がたくさんいるがもうすぐ減るだろう。このタイミングを見計らい料理を補充する。


 何故だか分からないがロイは料理作りの手伝いも行っている。


「お待たせしました。油淋鶏セットです」


 油淋鶏を食べやすい大きさにカットし、そこにレモン汁をかける。


「意外とさっぱりとした味で非常においしいですよ」


 目の前の金髪ポニーテールの利発そうなお嬢様に渡す。


「おっ、いいですわね!!これならビールにも合いそうですわ。日本製のビールなんて初めて飲むけど大丈夫でしょうか?」


「安心して下さい。味は保証します」


「そうでしょうか。ですが司会のお兄さんが言うなら間違いないでしょう。では、一口」


 利発そうなご令嬢が油淋鶏を口に運ぶ。甘さと旨味が口に広がる。


「うん、うめぇですわ。こっちのビールとも合いますわね」


 ゴクゴクとビールを飲み干し、彼女は油淋鶏をあっという間に平らげた。


「わたくし!ここに引っ越ししますわ!お兄さん美味しい飯をありがとうございますわ〜」


 彼女は高速で引っ越しの相談所に駆け込んで行った。


(凄い行動力のあるお嬢さんだ……)


 ロイは笑みを浮かべた。


 ***


 大体の人が食べ終わり、市長が挨拶をする。

 

「今日は茨ヶ丘町おこしフェスティバルに来ていただき誠にありがとうございます。私は茨ヶ丘町の町長をしております」


 会場に拍手が起きる。


「皆さんの中には疑問に思っている方もいると思います。何故、このような祭りがあるのか?何故このお祭りに呼ばれたのか」


「この町がド田舎である事は皆さんもわかっていますよね?」


 観客からドッと笑いが起こる。


「それは私達も承知しています」


「しかし、この茨ヶ丘市にはまだまだたくさんの魅力があります。それを伝えるためのイベントをやろうと思ったのです」


「私たちの町は田舎であり、人口も少なく、今までは特産品と呼べるものもありませんでした。そんな町だからこそ皆さんが楽しめるような。皆さんが住みたいと思うような町にしたいと思っています」


「今後はこのコケモモをはじめ様々なキメラ食を充実させていきます」


「皆さんどうかこの町に移住することをご一考してください」


 市長がステージから降り、拍手が送られる。


 数十人が引っ越しを本気で検討している。第一回、町おこしフェスティバルは成功で幕を閉じた。

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