第30話
鶏を左手で押さえておきながら、手斧で首を落とす。
ラボの実験室で絞めを行う。コケモモはケージに詰められている。
マタギの佐々木さんに教わった方法で一匹一匹絞めていく。一匹ごとに首にチューブを刺し、高速で血抜きが行われている。マタギの人に貸してもらったアイテムだ。血は後で何かに使えるかもしれないから保存瓶に入れる。
培養肉が発達したこの時代、人々は食に対する感謝というものが薄くなっている。それもあって、ロイは今回自分で絞めることに拘った。
「これで、20匹目っと」
先ほどまで煩かった室内は無音になってしまった。
マタギのお爺さん達は「俺らがやろうか」と声を掛けて頂いたが丁寧に断った。
解体から手羽先に分ける作業だけやってもらう。
階段を降り、ソファーを通り抜け、ドアが自動で開く。この三階建ての施設はドームの入口付近に位置している。一階と二階三階は独立しており一階はカプセル保存庫になっている。
出口の扉を開けると5人程がベンチで休んでいる。
「おまたせしました」
「おう。兄ちゃん、あの鶏はちゃんと殺れたんか?半端に苦しませるなよ」
「はい。ちゃんと」
「これでお前さんも一端の男になったな」
マタギ協会の会長さん、佐々木さんと会話をする。
ここに居るのはコケモモ料理大会で、見事三位までに食い込んだ人達だ。コケモモは遺伝子的特徴として過去の地鶏の遺伝子をAIに分析させ、それをベースにしている。
そのため普通の鶏肉を隔絶するおいしさだ。これを使った上で非常にクオリティの高い料理を提供してくれた。審査員ではなかったが実際に食べる機会が取れた。どれも非常にコケモモの長所を生かした料理だった。
ちなみに今ここには雫さんはいない。
雫さんはイベントに参加する市外の人に町の紹介をしている。この時代、逆にアンドロイドによる案内より人間によるプログラムされてない方法が好まれると友人から聞いたので実践している。温泉や神社などを紹介しているらしい。
ドームを扇状にみて三つの料理ステージが設置されている。牧場は簡易的なフードコートとなっている。
この料理ステージは大会の時、市長がどこからか持ってきたものを流用している。
準備は整った。後は客が来るのを待つだけだ。
ついにその時が来た。最初は金持ちそうな親子連れの夫婦。続いて若いカップル、年配の人、黒づくめの男、ギャル。老若男女様々な人がやってきた。
市長が食にこだわり田舎暮らしをしても問題なさそうお金に余裕のある人間をvuで80人程集めたらしい。後は何か面白そうな研究をしている人を20人招待したらしい。...思うんだがこの町に訪れる人は独特だ。
「ロイさん、お待たせしました!!」
会場で雫さんと合流する。今回は俺も司会として参加する。
「今日のイベント絶対に成功させましょう!!」
「はい!!」
舞台に上がる。意外と人がいて緊張する。
「皆さん、お待たせしました!ただいまより、茨ヶ丘町おこしフェスティバルを開催いたします!」
歓声が響く。拍手も鳴っている。そして、AIのDJによるBGMが鳴り始めた。
「本日はたくさんのコケモモ料理をご用意しております。どうぞ、心ゆくまで楽しんでくださいませ」
アナウンスと共にフードコートに人が押し寄せる。ロイはステージから客席の様子を伺う。皆、目を輝かせている。
今日振舞われるのは「手羽先と大根煮」「焼き鳥セット」「油淋鶏」だ。そしてドリンクは「レモンスカッシュ」と「日陰」だ。コケモモ料理コンテスト入賞者が腕を振るったコケモモ料理を楽しんでもらうのだ。
遺伝子改良を施した例のレモンを飲み物として提供しようというのは雫さんのアイデアだ、つくづく彼女には感謝している。
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