第29話

 ロイとエミリはvuの黒の輪に来ていた。二人で飲むのは久々だった。二人はカウンター席に座っていた。


「ロイっち、コケモモで大会開いたんだってね!!どうだった?」


「楽しかったですよ。参加者にも色々話を聞けましたし、貴重な経験が出来ましたよ」


 食が衰退した世界で飲食業を営むのは物凄い信念が必要だ。


「それは良かったじゃん。あたしも行きたかったなぁ」


「今度一緒にやりましょうよ」


「いいねぇ。そしたら今度は別のキメラ飯を食べさせてよ」


「良いですとも!!」


 ロイは上機嫌に答えた。


「ところで、最近調子はどうだい?」


 グラスを磨いているマスターが話しかけてくる。


「順調そのものですね。コケモモは順調に育っていますし、野菜も順調に収穫できています。それに、最近は観光客も増えてきましてね。そういえば喫茶店の売り上げも好調なんですよね?」


 雫さんの広報あって、色々な人が街に訪れ始めた。『白の輪』も珍しいコーヒーが飲めるという事で盛況している。


「ええ、クロエには頑張って貰ってます」


 マスターは頷く。さまになっているが、ただのvu廃人ということは忘れてはいけない。


「ロイっちも忙しくなってきたんじゃない?」


「まあ、それなりには……でも、楽しいので苦にはなりません。エミリさんの方はいかがですか?」


「あたし?あたしん所は相変わらずだよ。毎日依頼をこなしてるだけ」


賞金稼ぎバウンティハンターは大変ですね」


「うん。そうだよー。今日も大物を仕留めてきたばかりなんだよね」


「へぇ〜。どんな奴を倒したんですか?」


「えっとね、確か、〈ナイトメア〉っていうテロリスト集団のボス〈夢魔の女王〉だね」


「すげぇ……」


「ちなみに〈ナイトメア〉は壊滅したから安心してくれていいわ」


「マジすか!?」


「まじだよん」


 ナイトメアは巷では有名なテロ組織であり、その活動内容は多岐にわたる。人身売買や臓器移植の斡旋なども行う。しかし、最も悪辣なのは人体実験である。彼らは非合法の義体技術を用いて改造しているのだ。金の為なら何でもするのが彼らである。


「そうなんですか……。ちなみに、どうやって壊滅させたんですか?」


「んーと、まずはアジトに忍び込んで、〈ナイトメア〉の幹部を皆殺しにしたんだよ。それで、幹部の脳みそを取り出して、〈夢魔の女王〉の情報を引き出した後、知り合いと一緒に突撃したんだよ。4人くらい死んだけどね」


「まあ、常識的にそのくらいの被害は出ますよね」


「この糞ったれた世界じゃ仕方ないことだけど、やっぱり嫌だな」


 二人は同時にグラスを煽る。


「俺は恵まれている方だと思います。明日の心配なんてありませんから」


「確かに。でも、そんなものは些細な問題だよね。結局、生きることに飽きたら終わりだよ。時間がない私みたいな人間は、限られた時間で何が出来るのか考えないと」


 時間は有限だ。だから、人は今出来ることをするしかない。それが例え、誤った選択だとしても。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る