第28話
ロイはまた悩んでいた。コケモモを開発した。野菜の協力の目途も付いた。だが、肝心なのはどんな料理で町おこしをするか、だ。町長とロイは話し合いをしていた。
「それで何か良いアイデアはあるかね?ロイ君」
「そうですね……やっぱりこの町にしかないものをアピールするべきじゃないでしょうか」
「例えばなんだね?」
「そうですね、たとえば……うーん、そうだ。温泉卵を使った親子丼なんてどうですか?」
「良いかもしれないね。でも卵の安定供給とか出来るかい?」
「あー、微妙ですね。いずれは解決するつもりですが、コケモモは今の段階ではクローンを使っているんですよ。どうせなら手羽先を使った料理にしたいですね」
「う〜〜ん」
「戻りました〜〜」
雫さんがトイレから戻ってきた。
「お帰りなさい」
「それで、どこまで進みました?」
「コケモモで何を作ろうかってところまでかな」
「それじゃ、私の意見を言ってもいいかしら」
「ぜひ聞かせてください」
「コケモモ料理の大会をするなんてどうでしょうか」
確かに。この街には多くの飲食店が残っている。その上、家庭料理も盛んに研究されている。
「……なるほど、確かにそれも良いかもしれませんね」
「私も賛成だ。みんなに食べてもらう機会を作るのは悪くないだろう。となるとコストは……」
市長は予算集中モードに入った。話掛けても無視されるだろう。
「分かりました。とりあえずはコケモモを使って何かしらのコンテストを行いましょう」
こうして町ぐるみの一大イベントへと発展していくのであった。
***
町の広報が大々的に宣伝したことで、大会は大盛況。町の公園で行う。公園には多くの店が出店した。
審査員を務めるのはマスターと雫さん、大吉と市長だ。ロイはというと観客席からその光景を眺めていた。
『まずはエントリーナンバー1番。シンプルな味付けが魅力、焼き鳥』
炭火で焼かれた手羽先を塩コショウで食べる。炭の風味とコケモモの相性は抜群。大吉はビールのジョッキを片手に嗜む。
「ふむ、なかなか美味しいな」
「ええ、これはいけますね」
『続いてエントリーナンバー2番、こちらの商品はなんと、手羽先と大根煮になります』
ロイは熱々ひたひたの大根を見て確信した。これ、後で分けてもらおう。
「この味懐かしい感じがします」
「ほぉ、これは興味深いな」
大吉は何故か涙を流している。
『そしてエントリーナンバー3番、油淋鶏。甘辛いタレが食欲を刺激します!』
「鶏肉はヘルシーだから、若い子にもウケると思うぞ」
「美味しいけど少しくどい気がするわね」
「確かにちょっとカロリーが気になるかな」
「次の店に行きましょう」
その後も続々と料理は出され、どれもクオリティが高いものばかりだった。
ロイはキメラを作ってて良かったな、と実感した。
全ての料理が出揃う。
『さて、皆さん投票は済みましたか?』
全員が首肯する。
『それでは結果発表です。栄えある優勝に輝いたのは……エントリーナンバー2番の方!手羽先と大根煮!名前は、マユミさん。おめでとうございます!では、賞金の授与です』
賞金は100万新円。かなりの大金だ。
「やったわ!」
名前を呼ばれた彼女は、泣きながら賞状を受け取る。感動的だ。
「すごいじゃないか」
「おめでとう」
落選した人たちも自分のことのように祝っている。茨ヶ丘民。とてもいい人たちばかりだ。
「ありがとう。こんなにたくさんの人に自分の料理を食べてもらえたんだなって思ったら感慨深くなっちゃった」
こうして第一回キメラ料理大会は幕を閉じた。
***
「いただきます」
ロイは念願の大根煮を手に入れた。温め直して、頂く。
つゆだくの大根を一口。
……口の中で幸せが広がる。甘さと肉の旨味が染み出ている。
今回は何と。ライスを用意した。感動で震える箸で汁が染み込んだライスを食べる。
美味いッ。遺伝子学者が言うのもおかしいが遺伝子に刻まれた、故郷への思い、母性を感じる味わいと言えばいいのだろうか。
一人、事務所の休憩スペースで食べ進める。
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