第23話

 パチン!!!!

 頬に容赦のない痛み。ビンタの後、雫さんが抱きついてくる


「なんで!!!無茶するんですか!!!」


「本当にすみません」


「あなた、ただの研究者ですよね!!!!」


「それは...はい。そうです」


 雫さんは直ぐに離れる。少し残念だ。


「怪我は無いですか?」


「はい。幸運なことに」


 俺はある理由で怪我の治りが速いのだ。化け物熊と対峙して避けられたのも同様の理由だ。左腕の事は黙っておく。


「良かった……。私のせいでロイさんの身に何かあったらと……」


「雫さんのせいではありませんよ。これは僕の問題なのですから。」


「そんなことありません!私はロイさんの事が心配で、それで」

 雫さんは涙目になっている。


「雫さんの気持ちは嬉しいです。でも、僕は自分の力で解決したいのです。」


 彼女は泣きそうな顔になる。しかし、すぐに笑顔になり 分かりましたと言ってくれた。そして、彼女の手を取り、 ありがとうございます。雫さんの笑顔が守れてよかった。と言った。彼女は真っ赤になって俯く。


「あー。お二人さん?そろそろいいかしら」

 彩さんが話しかけてくる。


「ロイくん。君には色々あるだろうが、無理はいけないぞ。」


 シゲさんが言う。その言葉にロイは素直に従う事にした。


「はい、肝に命じます。」

「よろしい」


 彩さんの方へ向き、一つ疑問に思ったことを口にする。


「あの、一つ聞いていいでしょうか。」


「ん。なあに?」


「彩さん、空飛んでましたけど、どうやって浮いているんですか」


 義体化すれば飛べるようにすることもあるが、彩さんは特段そのような改造が施されているようには見えない。むしろ色気むんむんのお姉さんだ。


「ああ、あれはね。戦時中の遺産オーパーツを使ってね。私に埋め込まれているのよ」


「……へぇ〜。凄いんですね」


 ロイは確信した。これ深く関わっちゃいけないヤツ。


「まあ、今の世の中ではあんまり役に立たないんだけどねぇ。」


「そうなのですか?」


おいおい雫さんよ。コテンと首を傾げて聞くな可愛いだろ。


「うん。この装置は軍事機密なのよ。」


「なるほど。じゃあ黙っておきます。それにしても源さんは大丈夫なんですか」


「あいつはタフだから大丈夫だろ」


 シゲさんに軽くいなされる。おいおい、俺の覚悟はどうした、覚悟は。


「そうね」

 彩さんも軽い。


「そういえば、シゲさんはどうしてここにいるのですか」


「そりゃお前さん、熊が出たって聞いたら助けに行くしか無いじゃないか」


「そうだったのですか。」


「おうよ。」

 本当に申し訳ない。


「あ、お前さん。これ請求書な」


 金額を見る……


「1000万???」


 これは本気で町おこししないと払えない額だぞ。


「深夜料金と遺物運用代と、護衛料金。で1000万」


「嘘だろ……」


「ああ。安心しろ。友人料金で格安になっている」


「はい……」



 これ以上言う事はない。借金。うっ頭が(車のローンも途中の事を思い出した)


「そう言えば、熊はどこに行ったのでしょう」


雫が質問する。


「そうそう。熊鍋にしようかなって、マタギの人たちに頼んでドローンで牧場に運んでおいたわ」


「なるほど」


「解体はダーリンが出来るかしら。じゃあ帰りましょうかね」


「はい」


 助手席に雫さん。後ろにシゲさんと彩さんを乗せて、車は走り出す。


 ……え、軽く流したが、今、熊を俺の牧場に運ぶって言った?!?!

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