第21話

 突然けたたましくブザーが鳴る。

 ロイは飛び起きる。朝の二時。早朝だ


「どうした!!」


「奴が来よった。悪いがお前さん達、ババアを見とってくれ、そしてこっから出ないでくれマタギ衆総出で奴を殺す」


「待ってください!!どういう事ですか」


「最近、この近くで異常な熊が出てな、山菜採りにいった人が一人亡くなっているんだ。そして、今朝ついに現れた」


 雫は動揺しているのか声を震わせながら問う。

「そ、そんな危険な状況なんですか」


「あぁ、かなりまずい」


 そう言い残して源は散弾銃を抱え家を飛び出して行った。雫は恐ろしさから震えているようだ。


「雫さん。ちょっと待っててください」

 ロイは嫌な予感がして、家から飛び出る。源が車で向かった方角には民家は無い。

 彼は急いで車を飛ばす。


「源さん!!」

 車のライトが眩しく光り、ロイの声が響く。そして彼は驚愕する。源さんは全身血まみれになり、うつ伏せで倒れていた。彼を守るようにマタギ衆が取り囲み周囲を警戒している。


「大丈夫ですか」


「お前さん、ああ客人か。奴に源さんが深手を負わせた、まだすぐ近くにいると思うから気を付けてくれ」


 マタギ衆の一人は苦しげな表情でそう言った。彼らは辺りを警戒しながらも、すぐに源を車に運ぶ。


「お前さんも死にたくなければ早く戻れ」


「わかりました。皆さんもお気をつけて」


 雫から通話が掛かる

『何があったの?』

 ロイは落ち着いて答える。

「分かりません。ですが源さんが重傷を負ってます。少し待っててください」


 そういってロイは一つ深呼吸する。殿を無視して山の中を駆ける。


「お前さん!!!止まれ!!!」



 ***


「何?山に入っただって?あの青年が?無茶だ。今すぐ連れ帰って来い?え?早すぎて追えない?お前さんもベテランのマタギだろう。山の歩き方を初心者に負ける訳ないじゃないか。もういい、井下さんを呼ぶ。お前さんは帰って来い。ジジイの容態は安定している。義手は逝っちまったらしいがな。」


 源の妻は、呆れると同時に不安を抱えながら雫に話す。


「お前の彼氏さん、ジジイがやられちまった事に怒って、山の中に入っちまったらしい」


 雫は呆然とする。


「そんな、無茶じゃないですか。」


「何考えてんだか。ちょっと待っとれ、今から井下さんを呼ぶ」


「はい...ありがとうございます。」


「なに、彼らなら無事に助けてくれるさ」


 そういって通話を試みる


「.......もしもし、朝早くにすまないね。ロイ君が例の熊を追いかけて山の中に入って行ってしまったんだ。連れ戻せるかい?」





「わかった。ロイちゃんを助けに向かうわ」

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