第20話
「このコケモモ達、どうするか」
一世代目のコケモモは成長し、
「捌いた事無いですよね…」
「捌いた事、ないなぁ…」
「「ハァ……」」
雫とロイは同時に溜息を吐く。育てたのは良いが、二人とも鶏、ましてや六本足のコケモモなど捌ける筈がない。
「それなら、マタギの人たちにお願いしてみるのはどうかな」
「市長!!」
「お父さん!!」
中年の小太り、といっても清潔感があり気前の良さそうな男。彼は茨ヶ丘 光一。「お父さん」とは雫の父である茨ヶ丘市長の事だ。彼は旧い時代からこの土地を治めていた一族の末裔で、この街を治める者、いわゆる「長」だ。
「マタギ?」
「鹿とかイノシシを始め、違法なドローンや野生化した機獣の猟を専門にする人達だよ」
「あ~、なんか聞いた事あります。たしかに彼らに頼むのは良いアイデアですね」
「ただ、彼らは頑固でね。あまり融通が利かないんだよ」
「それでもやるしかないですよね」
「そうだね。頼んでダメなら仕方ないけど、出来る事はやってみよう」
「ありがとうございます!」
「じゃあ早速だけど、明日にでも電話して見てくれるかな」
「わかりました」
そう言って、市長は帰って行った。
次の日、雫とロイはマタギに連絡を取った。連絡先は事前に聞いている。マタギは山奥に住んでいるらしい。二人はロイの車で向かう。運転するのはロイだ。
街を出て、しばらく走る。すると、前方に小さな集落が見えてきた。そこはまるで、昭和中期のような風景。木造の家が立ち並び、その屋根には瓦が敷かれている。
道もアスファルトではなく、土が剥き出しになっている。家々の間からは田んぼが見えた。少し進むと畑が広がっている。
(これが、都会から来た人間がイメージするステレオタイプの田舎の風景なのかな……)
ロイはふと思う。そして目的地に着いた。民家の前に車を停める。チャイムを押して出てきたのは老婆だった。
歳は70代だろうか、顔には深いシワがある。彼女の案内に従い、家の中に入る。玄関を上がると、そこには囲炉裏があった。部屋を見渡すと至る所に熊の毛皮や木彫りの人形が飾られている。床の間には掛け軸と刀が飾られていた。
「まぁ、座りなされ」
そう言って座布団を出す。雫は頭を下げてから座った。ロイもそれに続き、座る。
「お主達がマタギに会いたいと言うた者達か?」
「はい」
「ほう。なぜ会いたいと?」
「えっと、それは……」
ロイが言い淀んでいると雫が話し始めた。
「私達はこの町で町おこしの為に何かできないかと考え、このコケモモを作りました。しかし、捌き方を知りません。だからあなた達に教えてほしいのです」
そう言うと雫はまっすぐ相手の目を見る。
しばしの沈黙の後、老婆は口を開いた。
「わかった。引き受けよう」
「本当ですか!?」
「あぁ。わしらも暇じゃからな。ちょうど良い」
「ありがとうございます」
雫は深々と頭を下げる。
「それで、いつ教えれば良いんだ?誰に教えれば良いんだ?」
「あ、僕たちは二人です」
「そうか。なら今すぐ教えるか?あの爺が帰ってくるまで、お茶でも飲んでくれ。ったくお客が来ているのに狩りとはすまないねぇ」
「いえ、こちらこそ無理を言いまして……」
そうして、雫とロイは囲炉裏を囲む。それから数分後、扉が開く音がした。二人がそちらを見ると一人の老人がいた。
髪は無く、髭は胸元近くまで伸びている。肌は日に焼け、真っ黒だ。着ているのは半纏に地下足袋。片腕が義体化されている
背丈は高く、体は鍛え抜かれているのだろう。その佇まいだけで只者ではない事がわかる。彼は家に入ると、雫とロイに向かって話しかけてきた。
「待たせたな。私がマタギの源だ」
源と名乗った男は二人に向き直り、しばらくして語り始める。
「まずはこのコケモモ達だが、わしが全部〆よう」
「全てって、全部で10羽以上ありますよ」
「大丈夫だ。問題ない」
「そうですか……」
雫はそれ以上何も言わなかった。
「では、捌き方をレクチャーしよう」
「よろしくお願いします」
「伝えた通り何匹か持ってきたか?それをこっちによこしてくれ」
「はい」
雫は籠を渡す。すると源が蓋を開ける。
「おお、奇怪だな。こいつを捌けば良いんだな。わかった」
「はい」
雫は不安げに返事をする。
源が取り出したのは刃渡り30センチ程の巨大なナイフだった。
「あぁ、これは私の愛刀だよ。こう見えても俺はここらじゃ有名なマタギでね。この
そう言って義手を見せる。土間から外の水場まで移動する。
二匹のコケモモの頭を躊躇いなく叩き切る。そして彼はコケモモを解体し始めた。
「まずは血抜きだな。頭を下にして放置する。腹を裂いて内臓を取り出す。そして足を外していく、と。次は皮剥ぎか。ここは結構面倒でな。専用の道具がいる。この前作った奴がここにあるからそれを使う。これがあれば毛皮が傷つくことなく綺麗に剥げる。よし、こんなものか。後は肉を切り分けるだけだ」
そう言うと彼はまな板の上に切り分けた肉を置く。
「ここまでできたら、これを焼くだけだ。まぁ火を起こすところから始まるがな。そこは自分でやってくれ」
「わかりました」
そう言うと、彼は台所へと向かっていった。雫とロイはそれを見送る。
「なんかすごい人ですね」
「うん。そうだね」
それから二人は無言のまま料理が完成するのを待つ。そして15分程が経った頃、囲炉裏の前には皿に盛られた焼き肉が並んでいた。
「出来たぞ。香草と塩だけだが美味しいはずだ」
「ありがとうございます」
雫がお礼を言うと、源は囲炉裏を挟んで二人の向かい側に座る。
「では、頂きます」
そう言うと雫は早速肉を口に運ぶ。そして咀しゃくし、飲み込む。
「いんっ!おいしい!」
雫は思わずそう叫ぶ。隣に座っているロイが微笑む。源は嬉しそうに笑った。
それから3人は談笑しながら食事を楽しんだ。食後、雫は口を開く。
雫達は先ほどから疑問に思っていた事を尋ねた。それは、なぜマタギであるあなたが町おこしを手伝ってくれるかについてだ。
彼の答えはシンプルだった。単純に暇だから。それに尽きるようだ。
「お前さん達だって、この町に人が集まっていないのは知っているだろう?」
「えぇ、知っています」
「なら話は早い。つまり、わしらは人が集まるように手を貸すのさ。簡単な話だ」
「そうなんですか……」
「今日は泊っていきなさい。暗い夜道はあの車でも危ないだろう。田舎の夜道を舐めちゃいかん。熊や鹿に襲われたらたまったもんじゃないよ」
「はい。ありがとうございます」
そうして、その夜は更けていった。
◆◆連絡◆◆
お久しぶりです。覚えてくださっていた方、ありがとうございます。
カクコン初参加という事で、
エンタメ総合部門で大賞狙って行きます。
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