第19話 閑話
男が裏町通りを歩く。
ここは裏町通り、超資本主義の負け犬どもが行きかう違法な闇市。電子ドラッグの売人、4本腕の娼婦、違法武装のブローカー、浮浪者。その他。
この現実に馴染めず、電脳世界にも行き場のない奴らが集まる。まさに、最低の地区。
細い、といっても戦車二台は通れるだろう通りを行く。
不必要に連中に目を合わせればどんな揉め事になるかは安易に想像がつく。
そんなことを考えていると、不意に声をかけられた。
「おい兄ちゃん、金貸してくれよ」
声の方へ振り向くとそこには四人組のチンピラがいた。全員、薄汚れたコートを着ている。
「悪いけど、持ってないね」
俺は答える。
「あぁ? てめぇなめてんのか?」
リーダー格の一人がすごむ。その男は身長2メートル近くありそうな大男だった。
顔には無数の傷跡があり、凄まじい威圧感を放っている。だが――俺にとってこんなものは日常だ。正面を向く。
「その白いマスク!!白貌...ッ!」
別の一人が叫ぶと同時に銃を構える。そして他の二人がそれに続くように懐から拳銃を取り出した。
「何してんだ!こいつは『あの』賞金首なんだぞ!?」
「えっ? でもコイツは……」
「いいからさっさと撃て!!」
三人が引き金を引く。距離にして約3メートル。だがその弾丸は全て空を切ることになった。
「……消えた」
最初に叫んだチンピラがその一言を最後に絶命する。
次の瞬間、彼の頭部が宙を舞ったのだ。
それはまるで手品のように一瞬の出来事だった。
残された二人の内一人は恐怖心に耐えきれず逃げ出そうとするが、
「待てって……逃げるこたぁねぇだろ?」
そう言うとその男の頭も吹き飛んだ。残ったのは、腰を抜かし失禁している最後のリーダー格の男だけだ。
「ひぃ……助けてくれ。」
「……まあいいか。今日はこれくらいにしとくか」
愛刀の「雷鳥」をローブの下に隠れた鞘に格納する。その場から立ち去り、目的の場所に向かう。
◆◆◆◆
「ジンさん。いくら仕事が上手くいかないからと言って八つ当たりはねえよ」
「先に相手が手を出したんだ。それより大将。魚が取れたって本当かい?」
襤褸切れで隠された店内で、大将と二人で会話をする。この裏町の情報屋をやっている中年男性だ。マスクを外す。
彼が営んでいるこの店の名前は"フィッシュ&チップス"という。なんでも店主である彼曰く、昔イギリスにいた時に食べたフィッシュアンドチップスが忘れられないのだという。
しかし残念ながらこの国では魚の値段が高く、新鮮なものを手に入れることは困難であるため、自分で釣ってきた魚を使って料理をしているのだと彼は言っていた。
そんな彼に俺は魚料理を頼んだのだ。電脳世界で食べる魚は何だか生臭くて苦手だ。しかし、密猟が成功するとは思っていなかった。
ちなみに代金は既に前払いしてある。店内を見回すと様々な機械があることが分かる。カウンター席の奥にあるビリヤード台、テーブルの上に並んだダーツボード、壁にはホロがいくつか設置されている。
客層は主に浮浪者ややくざ者ばかりだが、それにも関わらず室内はとても静かで落ち着く雰囲気があった。今日は貸し切り状態だな。
どうせならもっと繁盛すれば良いと思うのだが、店主によるとここに来る客の大半は非合法組織の幹部たちであり、そういった連中の情報網を利用して儲けているのだからこれで丁度いいのだと彼は語っていた。
「今日用意したのはこいつだ」
カウンター席を挟み大将が緑の液体で満たされた水槽から魚を取り出す。
デカいデカい。60センチはあるよなコレ。
「スズキ科の一種ブラックバスと呼ばれるものだ。その変異種だな。体表に鉱物を纏っているのが特徴だな。硬くて自然界じゃ基本的に傷つかねえ」
俺はその金属光沢をもつ魚を見る。その色は銀にところどころ深い黒が混じっており、神秘的な美しさを放っていた。
「こいつはまず普通の調理方法じゃ食えねえ。こいつがまず必要になる」
と言って取り出したのは注射器。
「これは解毒用ナノマシンの一種でな。細胞の鉱毒を取り除くことが出来る。これで満たした水槽で1時間ほど放置する。すると解毒されていく、そっちの水槽の下に黒いのが溜まっているだろ?あれが有毒物質だ。」
「なるほど……」
確かに言われた通り、大きな水槽の底に真っ黒の何かが沈殿していた。これ全部有害物質なのかよ。
「あとは捌いて塩焼きにするだけさ。簡単だろ?」
大将はそう言いながら包丁とまな板を取り出し、手際よく捌いていく。鱗を落とし、腹を開き、内臓を抜き取る。その動きには無駄がなく洗練されていた。
「これをバーナーで焼く。……よし、いい具合に焼けたぞ」
切り分けた身を皿に乗せる。見た目にも綺麗な焼き色だ。箸を手に取り口に運ぶ。……うん、うまい。
噛むたびに味が出てくる。魚独特の旨みをしっかり感じることができる。白米も欲しくなるが、ここは我慢しておこう。
続いて刺身を食べてみる。
こちらは白身の淡白さがうまく表現されていて、何だか癖になりそうだ。塩が効いていて深みがある。大将が言った通り、これは調理次第でいくらでも美味しく食べられそうな気がした。
最後に残しておいた骨を出汁として飲む。
その味わいは、魚の持つうまみの全てが凝縮されたようなものだった。
今までに食べたことのない感動を覚える。
この感動を是非とも他の人間に伝えたかったが、あいにくここには俺と店主しかいない。残念ながら一人飯となってしまった。
「ご馳走さまでした」
「そういやジンさん。どっかの田舎で上手い鶏肉が食えるってよ。何でも”キメラ飯”とかいう物を提供するらしい」
「それは面白い。次のデカい仕事が終わったら行ってみたいですね」
大将に別れを告げ、夜の街へと繰り出した。
◆◆◆◆
ここまで読んでくださった方、
ありがとうございます。
こうすれば面白いんじゃね?
こんなシーンあれば読むぜ!
みたいなのありましたらコメントください。
参考にして、より良い物を作りたいので
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