第18話 

 今日は孵化したキメラを培養液から取り出し、餌を与えなければならない。


 まず、ガラスケースに入ったキメラの卵を取り出し、培養液から取り出す。


 コケモモは透明感が無くなり、ひと目見て鳥と分かる姿に成長していた。時折脈打つ様に動いている。ロイは慎重に扱い、餌を与える準備をする。


 春先なので幼虫を集めるのは簡単だった。その辺の草むらの端をひっくり返すだけだ。


 この時代に見合わない虫かごから、うねる虫をコケモモの口に近づける。目がまだ開かないコケモモは嘴でロイの手のひらを突きながら、ようやく虫を口の中に入れる。コケモモが食べ終わるまでロイは手を動かさない。


 ロイは、この時間が好きだ。無心になれるし、何より生き物が育つ様を見るのは楽しい。一通り食べ終わったコケモモは再び眠りについた。飼育ケージに入れる。


 これで当分の間は放置だ。

「これでよし、っと」


 そう呟きながら、ロイは水筒を取り出し水を飲む。


「お邪魔しま~す」

 雫さんが入ってきた。


「こんにちわ」


「はいこれ、頼まれてたやつ」


「ありがとうございます」


 ロイが受け取ったのは、サプリだ。

 商店街のサプリ専門店で購入したものだ。サプリは定期的に摂取する必要がある。その間隔は長くても一週間に一回程度でよい。


 また、種類によって飲む時間も異なる。サプリは、基本的に毎日決まった時間に飲めばよい。ロイは貰ったサプリを眺める。


「ロイさん、サプリばっかで大丈夫なんですか?」


「はい、全然平気ですよ。むしろ健康的で良いくらいです」


 サプリは、電脳廃人にとって必需品であり、同時に生命線でもある。


 ***


 その日は、キメラの様子を見た後は特に何も無かったので、vuで軽く雑談をしていた。


 夜、部屋でくつろいでいるとコンコンとノックされる。


「ロイさん、ちょっと外、出ませんか?」

 クロエと二人きりで外に出るのは、初めてだ。


「うん、行くよ」

 二人は家を出て、商店街に向かう。


「最近、よく散歩に出てますけど、何か理由があるんですか?」


「そうだね、散歩と言うか、散歩道かな」「散歩道?……ですか」


「うん、散歩をする場所を決めているんだ。そこでゆっくりするのが好きなんだよね」


「あ~分かります。私も散歩するとき、自然に囲まれた静かなところに行きたいです」


「そうなんだよ。だから、たまにはこうやって出歩いてるわけ」


「いいですね~。……あっ!、そろそろ着きますよ」

 着いた場所は公園だ。広い草原があり、芝生が生えている。そして、その先には大きな池があった。


「へぇーここ綺麗な所ですね」


「昔、家族でよく来てたんですよね」


「あの、ずっと気になってたんですがクロエさんのお母さんって...」


「少し前に亡くなりました。病気で」


「あ、ごめんなさい」


「いえ、もう大分前の出来事なので。それに今はお父さんが居てくれるので」

 そう言って彼女は笑顔を見せた。


「じゃあ、ここでご飯でも食べましょうか」

 そう言うと、カバンからサンドイッチを出した。


「えっ?作ってきたんですか!?」「はい、どうぞ」

 クロエからサンドイッチを受け取る。

 パンとレタスにハムを挟んだシンプルなもの。


「じゃあ、いただきます」

 ロイはさっそく食べる。味はシンプルだが美味しい。


「ん、おいしい」


「良かった」


「料理できるなんてすごいなぁ」


「そんなことないですよ。これぐらい誰でもできます」

 そう言いながらも、どこか嬉しそうだ。食事を終えてからしばらく、ロイとクロエは二人で池の周りを歩く。


 このあたりでは一番大きな池で水面は澄み切っている。池の水は地下から湧き出しているらしく、水底が見える程透明だった。


(こんなところに来れたのはラッキーかも)


 周りを見ると、人はまばらだ。意外と人がいるようだ。しかし、この空間だけ別世界のように静かで落ち着く。暫く他愛のない雑談をして、クロエが立ち上がる。


「じゃあそろそろ帰りましょうか」


「うん」

 二人は家路に着く。






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