第14話

 善は急げ。


 宴会を放り投げてvuのホームに降り立つ。

 シンプルで白い部屋。ここでも作業が出来るが長時間集中できない。いつもの溜まり場ブックマークの一番上の「黒の輪」に飛ぶ。


 一瞬にして「黒の輪」の店前まで反転フリップする


「いらっしゃいませ、ってロイさん大丈夫だったんですか?」


「マスター、心配させてすみません。もう大丈夫です」


 そこには先客がいた。色白赤髪ギャル。


「あ、ロイっち!」


「おお、エミリさん。お久です。色々話たいんですけど、ちょっとまた後で。マスター、ちょっと二階の空いてるところで作業しても?」


 ロイはギャルを軽く無視してマスターに話かける。


「どうかしたんですか?」


「今、茨の湯にいるんですけど、打開策が思いついたので作業スペースを借りたいんですよ」


「ああ、それなら全然使ってください」


「頑張れーロイっちー」


 ロイはマスターに許可を取り作業場に向う。暗い室内、掌サイズのホログラムが浮遊し間接照明のようにそこだけが明るい。ここは非常に狭く落ち着く場所だ。ホログラムのキーボードがポップアップする。これを叩き、キメラ作成に取り掛かる。ラボのAIを起動させ、ウィンドウを開く。そこに表示されたのは、この前作った食用の動物たちだ。新規作成から設定操作を始める。

 

 銭湯でシゲさん達と地ビールを飲んで、思いついた。


 "見た目に拘らず、そして『日陰』に合うもの"。



 それは……



 ベースとなる動物をラボのシステムに入力する。


 入力した動物は、鶏。それだけだ。


 思えば研究データにこだわり過ぎたのだ。もっとシンプルでも良いじゃないか。遺伝子を組み替えていく。二重螺旋の一部を削り、または書き換えていく。キメラを作る為の遺伝子書き方は非常に繊細だ。メージから遺伝子を書くという事は、つまりは人間の脳味噌に入れ墨を掘るようなものだ。


 一般的に研究者が理想形をモデル化しそれに近づけるためにAIが遺伝子を書き換えていく。


 しかし、ロイの場合は逆だ。


 AIにモデルを作らせ、それを元に遺伝子を人力で書き換える。本人は遺伝子の癖を覚えれば行けるというが他の研究者からしたら異常であり異端だ。そのためロイは軽い迫害を受け今までキメラ関係の職業に就かせて貰えなかった。


 骨格、筋肉の付き方を弄る。骨密度や筋繊維を弄っていく。


 三時間後、ホログラムに映し出された生物は、足が八本の鶏だった。


 名前はコケモモという。


 完成データを見て満足する。


 まずは餌の問題。キメラに関わらず動物を飼うという事は餌が必要という事だ。基本的にキメラは草食生物をベースに作るので芝生のようなドーム内の牧草を食べさせておけば問題ない。


 次に糞尿の問題。これに関しては既に対策済み。排泄物を分解する薬品が地面に染み込んでいるので当分は大丈夫だ。


 次に病気。これは動物にとって最大の問題だが寿命を削り生命力を強化してあるので大丈夫だ。


 最後に成長スピード。これは元となった動物の5倍程度になっている。


 ここまでで一通りの作業は終わった。


 ロイは急いで茨の湯に戻る。

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