第11話

 商店街巡りから数日後、ロイは雫と一緒に農協に来ていた。農協は三階建ての田舎にしては大きい建物だった。アンドロイドによる案内とともに会議室に通される。


10分ほど待たされて入ってきたのは小汚い中年の男性。


「ほ~~ん。君たちが、例の町おこしの?」


値踏みするような目線を向ける男。この男はJAの職員で、大吉と名乗った。


「はい。初めまして、私茨ヶ丘市役所、町おこし推進部の狭間ロイと申します」


「同じく、町おこし推進部広報の茨ヶ丘 雫と申します」


「田舎に来た研究者に市長の娘さんねえ。町おこし。町おこしねぇ。といっても何をするんだ?」


大吉が嫌味っぽく質問する。


「はい。”キメラ”という生物を作り、それを特産品として移住者を集める、といった試みです。」


「なるほど。確かにこの町は高齢化が進んで農業従事者も減っている。が、アンドロイドで代替可能だからなあ。どうでも良いんだよなあ。」


「それに関しては私から説明させてもらいます」


ロイから雫に役割が移る。


「まず、秘匿されている植物の種子を公開します。こちらは既に過去に絶滅した野菜の完全なデータを持っています。例えば”レモン”など。」


「……なるほど、続けたまえ」


「その上、ロイさんの技術があれば更に効率的な種子を作ることができます」


「ほう。そりゃ面白いな。失われた植物を再現する、か。だがキメラというのは……難しいんじゃないか?」


「いえ、そんなことはありませんよ」


ロイが反応する


「そうかい。それでも実績がないからなあ。こちらは同意しかねる。う~ん、そうだな。フフフ、何か培養肉を上回る何かを作ったら、喜んで協力しよう」


大吉の皮肉。雫は顔をしかめる。


「ありがとうございます!」


ロイは以外にも、あっさりと肯定する。自信の表れか。


「いや、君ね──」


「いえ、言質は取ったので今日はこれで失礼します」


「チッ、まあいい。楽しみにしてるよ」


そう言って二人は席を立つ。


***


「何なの、あいつ!」


「まあまあ、協力してくれるんだから」


「それにしても、馬鹿にしすぎじゃないですか」


自動ドアから二人は外にでる。


「取り敢えず落ち着いてください。コーヒーでも飲みに行きましょう」


ロイが提案する。


「そうですね。あの、さっきの大見得、格好良かったですよ」


雫とお茶がしたいという下心だが、見事OKが出る。ワクワクで車に乗り込み、「白の輪」へアクセル全開で向かう。





***


白の輪に帰るとクロエが料理を作っていた。事の事情を話す


「──って感じで酷いんですよクロエちゃん」


「よしよしよしよし雫ちゃん頑張りましたねーー」


 クロエと雫の関係は不明だが美少女同士がイチャイチャしているのは分かる。


 マグカップをあおる。苦いブラックのコーヒーの筈だが、何故か甘く感じる。

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