第10話

 ロイはジャンク屋に言われた通り、八百屋にやってきた。店先には野菜が並んでいる。新鮮な野菜だ店番をしていたのは若い女性だった。



「こんにちは」



「あら、あなた初めて見る顔ですね」



「はい。ジャンクの婆さんに教えてもらって来たんです」



「そうだったの。うちは八百屋といって農協と契約して野菜や果物を売っているんですよ」



「それは凄いですね」



「はい。それで何か買っていきませんか?このトマト美味しいですよ」



「いいんですか?」



「はい。是非食べてみてください」



「じゃあ……頂きます」



 ロイは試食用のトマトを手に取り、一口食べた。爽やかな酸味が口に広がった。



「おいしい……」



 思わず呟く。こんなに美味しいものを食べたのは初めてかもしれない。今まで食べ物は栄養さえ取れれば何でも良いと思っていたが、認識を改めなければならないと思った。



「ふふ。気に入ってもらえたみたいで良かった」



「現実にもこんな美味しいトマトあるんですね」



「SG種といって遺伝子組み換え種を使っているんですよ。だから味は保証できますよ」



「そうなんですね。その農協って何なんですか」



「農協は農業者を中心とした『組合員』が、農家の営農と生活を守り高めることなど、よりよい地域社会を築くことを目的に組織された協同組合です」



「な、なるほど」



 ロイはあまり農業について詳しくなかったので、とりあえず相槌を打っておいた。



「ちなみにこの辺の八百屋はここだけですけどね。後は大体スーパーとか、ショッピングモールとかで野菜を買う人が多いですね」



「へぇー」



 ロイは話を聞いている内にだんだん興味が出てきた。



「ちなみにどんな種類の野菜が出回っているんですか」



「キュウリやトマトやナス、キャベツなど基本的なやつは揃っていますね」



「そうなんですか」



「あと珍しいところではレタスとか」



「それは聞いたことがあります」



 ゲームで見たことがある。あまり現実世界で見かけないが、確か畑で栽培されていたはずだ。



 そうこうしているうちに店の外から声が聞こえてきた。そちらをみると小さな子供がこちらに向かって手を振っていた。子供は店に入りロイに話しかけた。どうやら母親と買い物に来たらしい。母親は野菜を見ているようだ。親子は楽しそうにしている。その様子を見てロイは少し微笑ましく思った。子供はロイの方を見ながらニコニコと笑っている。ロイは手を振ると、子供は嬉しそうに手を振り返した。子供の笑顔はとても愛らしかった。ロイはしばらく手を振り続けていた。やがて子供は母親と一緒に店から出て行った。



 ロイは店先に戻り、商品の値段を確認する。野菜はどれも安かった。特にニンジンとジャガイモは一個五十円だ。他の野菜も百円以下という破格の価格である。



「これは買いでしょう」



 ロイはいくつか腕輪バンドから電子決済で野菜を買った。



「今日はなんだか気分が良いな」



そう言って、ロイは八百屋を後にした。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る