第7話 朝の出来事

 目を覚まし、カーテンを開けると空は青く澄み渡っており太陽がさんさんと輝いている。視界の端にある時計を見ると10時を回っている。



 昨日飲みすぎたせいかまだ二日酔い気味だ。マスターが用意してくれたのだろう錠剤と水が入ったコップが机に置かれている。アセトアルデヒド分解薬を水筒の水で飲んで一息つく。



 体内で高速で毒が分解されていく感覚、心なしか頭スッキリしてきた気がする。窓の外を見てみると大きな山が見える。



 あれがシゲさんが言っていた『八尾山』だろう。その麓に広がる町、『茨ヶ丘市』は人口3万人ほどの小さな田舎町だ。



 駅のある町の中央から離れると田畑が広がっている。自然豊かでとても住みやすそうだ。更に、田畑の外側は川を挟んで樹林地帯になっている。



 ”完全サプリ”を中央から出る前に飲んだので食事の必要性はない、普段の癖で水筒を呷る。


 

 この水筒は空気中の水分を貯め、除菌まで行う機能がある。見た目はゴツくてその割に軽いという機能性とロマンを詰め込んだ優れものだ。



 洗面台で顔を洗い服を着替える。そして着替え終わり、鏡で自分の姿を確認する。



「よし、完璧だ」



 整った顔立ち。我ながら良い遺伝子の元に生まれたと心の中で自賛する。全身を隈なくチェックした後、部屋を出て階段を下っていく。



 ◆◆◆◆



「あ、ロイさん!おはようございます!」

「おはようございます」



 カウンターにはクロエさん。挨拶を返す。階段を下り切り、周りを見るとぽつぽつと席が埋まっている。皆、お年寄りだ。



「ロイさん、朝ご飯要ります?」



「いや、お構いなく。サプリを飲んでるので」



「そうですか……」



「お前さん、食べて行け。見ない顔だが、ここのナポリタンは絶品だぞ?」



 サングラスをかけた白髪のおじさんが、勧めてくる。



「そうですよ?こんな美女の手料理なんて、中々食べられるもんじゃないですよ?」



 クロエさんは茶化しながらナポリタンを勧めてくる。



「確かに……!」



 そう言って、カウンター席に座る。確かにクロエさんは美人だ。切れ目のカッコイイお姉さんといった見た目なのだが、何せエプロンを着ているので、ギャップでとても可愛い。しばらくして、トマトのいい香りが漂う。



「これが、特製ナポリタンと。こっちがコーヒーです」



 コトンと皿が置かれる。うーん、いい香りだ。



「いただきます」



 フォークを使い、一口食べる。



「ん!!!!」



 パスタのモチモチ感はさることながら、ピーマンの旨味が、トマトの味わいを引き立たせている。馬鹿高い工業的栽培でなくともここまで美味しいものが食べられるのか。



「美味しい……」

「でしょーー?」



 ニコニコしながらクロエさんはこちらを見てくる。目の前で屈まれるとと豊かな胸元と鎖骨が見えてしまい、俺はさっと目を逸らす。



 食べ進めること10分、久しぶりの食事を楽しんだ。



「ごちそうさまでした」

「はーい」



 お金?勿論、マスターを言いくるめて三食付きにしてもらっているから大丈夫だ。悪徳だって?失敬な。



「今日は住民票の手続きですか?」



 クロエさんが聞いてくる。



「ええ、それでは行ってきます」



「いってらっしゃーい」



 さて、今日は市役所に行って、住民票を移す作業をするのだ。……役所がまともに機能してるなんて凄いな。東京なんてほぼ無法地帯だ。店の入り口のドアを開ける。



 ◆◆◆◆



 古めかしい長方形の建物。冷たいコンクリートの壁。ここが市役所だ。自動ドアが俺を迎え入れる。ちらほらと人がいる。受付が一つ、窓口が四つ。一つは対応中のようだ。



(ここで発券してっと)



 発券機のボタンを押し、発券する。椅子に座り、ニュースを確認する。



 網膜のレンズ越しにあらゆるニュース映像と文字が現れる。



 ビルネシアで内戦が勃発、草薙武装商社の新製品の広告、一週間の天気。適当に記事を読んでいると、ポンと心地よい音がなり、窓口に18番と表示される。俺の番だ。

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