34.失態アゲイン
数時間前に激昂し己を自制できずに兄ちゃんを殺めておきながら何事もなかったように普段と変わらない何気ない日常へと戻って行ったパーキンス。
ジキル氏とハイド氏以外にも違う人格が彼の内面には無数に存在し鬩ぎ合っているのであろうと推測する。
フーの『四重人格』
ダニエル キースの『五番目のサリー』
いや、キースが書いたノンフィクション『24人のビリーミリガン』級の雑多な人格がパーキンスの中で形成され日々、鬩ぎ合っているのではなかろうか?
いや?パーキンスにとってこれが普段の日常であってカオスとヴァイオレンス、そしてエロスが彼の中では常習化しているのではないだろうか?
そうでなければ、あんな破茶滅茶な人格変貌が神の子として創造された人間に成せる筈がない。
ドライデンへのツンデレ。
来々軒の親父との息の合った軽快なフットワーク。
私への強要とも捕れるフェラの打診。
そして、鬼畜人しか成し得ない兄ちゃんへのイラマチオ。
そして、本来ならば街の保安を保たなければならないという職務規範から大きく逸脱し兄ちゃんに強盗を指顧するという凶悪性。
フー、助かったぜ。
敵には回したくない男だ。
私はガンガンと冷房が効いているにも関わらずパーキンスというモンスターの事を想像し額から滲んだ汗を手の甲で拭った。
ドライデンがマールボロのフィルターを下にしてテーブルでトントンしながら言った。
「フー、危なかったぜ。人生ゲームが保安官に見つかっちまった時には冷や汗もんだったぜ。さぁ、次は何して遊ぶ?」
そう言いながら人生ゲームと地図を仕舞っていた引き出しの上の引き出しを開いた。
そこには、トランプ、ウノ、花札、オセロ、チェス、それにぐらぐらと揺れながら何時壊れるんだろうっていうスリルが溜んない恐竜の形のバランスゲームも入っていた。
完全に、この人遊ぶ気満満だ。
保安官助手という職務に励む気はさらさら無いらしい。
顔は目と目の間隔が狭く鼻は団子鼻で唇はカサカサで目と鼻と口が集団疎開させられた子供のように中心に寄り添ってる言うならばブサ可愛い男で少年のような純粋無垢なあどけない笑みを浮かべて私に尋ねるドライデン。
我がソウルメイトよ。
可愛いではないか。
私は、この男に母性本能を擽られているのを感じていた。
「ちょっと、これ見てご覧よ」
私はパーキンスのマホガニーのデスクの引き出しを開いた。
『牝豚調教!』
『黒人レズビアンのネーチャン二人と楽しむハーレム ミッドナイト ドライブ』
『母さん、こんな僕でごめんよ!』
『うんこを食べる私』
『浣腸三昧!』
『チャイナドレスの中国美女に足コキしてもらうマゾ豚親父!』
『尻コキ万歳!』
『隣の奥さんの脇の臭いを嗅がせてもらい、ついでに嘗めさせてもらう変態クンクンペロペロ男』
『グランマが大好き!』
エトセトラ、エトセトラ…
パーキンスの引き出しから次次とお目見えするポルノDVD。
SM、スカトロ、レズビアン、近親相姦物、おばあちゃんフェチに脇フェチ、尻コキ物から足コキ、食糞物、アフリカンアメリカン、ヒスパニック、アジア系、人種や肌の色など関係なく種々雑多なヴァリエーションで取り揃えられたDVDコレクション。
そりゃ、来々軒の親父と意気投合するよな!と思わせるマニアとフェチを唸らせる見事なコレクションだった。
「マ、マジかよ」
ドライデンが目ん玉をぐるりと回してびっくりしている。
私は、その引き出しを閉じて下の引き出しを開いた。
そこには、緊縛用の赤いロープ、ロウソク、鞭、浣腸液、そしてロバータ フラックの名曲“キリング ミー ソフトリー ウィズ ヒズ ソング”(やさしく歌って)を捩って『やさしく縛って』と冠された日本のソフト オン デマンドというポルノ制作会社が制作したポルノDVDが赤いロープの上にちょこんと置かれていた。
ポルノDVDのジャケットのカーラ グギーノ似の美女が全裸で赤いロープで亀甲縛りにされていて哀願するような目付きで涎を垂らしている。
パーキンスは、このポルノDVDに触発されてコールガールのネーチャンを呼んでSMプレイを実践しようとしているのは想像に難くない。
ジェイムズ パーキンス保安官、57歳、街の保安はなおざりにしても己の快楽の追求には余念がない男。
フー、助かったぜ。
味方に付けておいて頼もしい男。
私が三国志の劉備 玄徳だったならば、さしつめソウルメイトのドライデンは関羽、熊のように力持ちなパーキンスは張飛といったところだろうか。
義兄弟どもよ、春になったら桜の木の下で桃園の契りを交わそうではないか。
「あんな幻覚で法令巡視していた保安官が…もはや、この街では法の番人と言っても過言ではないパーキンス保安官にこんな一面があったなんて…」
ドライデンは近所で起きていた連続殺人事件の犯人が実は自分の父親だったという事実を突き止めてしまった息子のような驚愕の表情でパーキンスのコレクションを眺めていた。。
私は我が子を諭すように言った。
「人間には表と裏の顔が混在しているのよ。言わば表裏一体って奴ね。自我や暗い欲望を抑えて表面的には社会に通用する顔を身に着けていると(マスク)の中でニューマン博士が言っているじゃないの。人間は誰しもがマスクを被っているのよ。偉そうにしている政治家や学者、大学教授、弁護士、真面目ぶって論をぶっていても愛人とアナルファックしてたりSM倶楽部で女王様にハイヒールでポコチンを踏み付けられたりしてヒーヒー善がっているブタヤローばかりなのよ。それが人間ってものなのよ。ケネディやキング牧師がいい例じゃない。白と黒の綿糸で織り込まれたタペストリーみたいな感じかな。決してグレーに混ざり合わない本音と建て前。西日に照らされた墓石から長く黒く伸びる影が、まるでピアノの黒鍵と白健のようなコントラストに見えるように…。誰しもが陰影を心に秘めているのよ。口先では綺麗事を宣っていても人種問題だって何も解決しないじゃないの。白人と黒人。肌の色は違えど体の中に流れている血は同じ赤なのにね」
決まった。
私は己の論に酔い痴れていた。
「こ、これ、一枚くらい借りて帰ってもバレねえかな?」
えー、えー、えー、今、私めっちゃ良い事言ってたのにー。
私は拍子抜けし肩を竦めて見せた。
「まっ、いいんじゃないの。一枚くらいパクっちゃいなさいよ」
私はパーキンスの見事なコレクションンの中から『おちんぽガールズ』というタイトルのDVDを抜き取りドライデンに渡した。
往年ブレイクしたスパイスガールズのそっくりさんがフェラチオ三昧で顔射やゴックンでザーメン塗れになる企画物だった。
DVDのジャケットを見るなり生唾をごくりと呑み込むドライデン。
「スッゲータイトルだな。俺、このベッカムのかみさんに似てる女タイプかも。ほんとにバレねーかなぁ~」
「大丈夫よ、パーキンスがコレクションのリストでも作っていない限り。さっさとバッグに仕舞っときなさいよ」
「そ、そうだな。神様、こんな俺をお赦しください。ザーメン」
ドライデンは胸の前で十字を切ってバッグに『おちんぽガールズ』を仕舞った。
キャッキャッと笑う私。
「さあ、遊ぼうぜ。何か好きなの選びなよ」
私は迷わず恐竜の形のバランスゲームを選んだ。
ドライデンが無邪気な笑顔を振り撒きながら箱の中から骨の形のパーツとパーツを積んでいく土台の骨格部分をテーブルに並べていく。
私は冷蔵庫にハイネケンを取りに行った。
冷蔵庫を開けたらハイネケンは1本しか残っていなかった。
あっちゃー!
私は額をピシャっと打って振り返りドライデンに言った。
「1本しか残ってない」
1ダースの内、半分は私の膀胱の中に収まっている。
通りでさっきから膀胱がパンパンでおしっこがしたいのを我慢している訳だ。
おしっこを放出すれば私の膀胱にはまだまだビールが収納出来るのは容易な事だ。
肝硬変、慢性腎不全という病魔が私を襲う日まで私は生活習慣を改めずアルコール、ギャンブル、そしてまた喫煙を始め煙草という悪癖に依存し悪習慣を断ち切れない人生を送るであろう。
兄ちゃんに1ダース掻っ払って来いって言ったのは私だ。
こんな事になるのなら2ダース掻っ払ってこさせとけばよかった。
痛恨の極み。
夜はこれから楽しくなるのに。
ドライデンが言う。
「あんたがそれ飲めばいいじゃん。俺、これあっから」
ドライデンが引き出しの奥から、まだ封を切って間もないシーバスリーガルのボトルを取り出し振ってみせた。
Oh~~~!!!
それでこそ我がソウルメイトよ!
「俺の分、グラスにクラッシュアイス入れて持ってきてくれよ」
私もハイネケンよりもアルコール度数の強いシーバスリーガルの魅力に抗えなかった。
そう、それは三下のチンピラが強いマフィアのボスに憧れ何時の日か俺もボスみたいに伸し上がってやるぜ!というような淡い野心を抱くような感覚だ。
もしくは、ストリキニーネの混ざったヤクを打ち続けているジャンキーが純度の高いコークを打ってぶっ飛ぶ時の感覚とでも言ったところだろうか。
私は強いお酒を欲しているのだ。
「私も、それ飲んでいい?」
「ああ、好きにしなよ。まだ、たんまり残ってっからよ」
流石、我がソウルメイト。
私の気持ちを察し器のでかさといい気前の良さといい申し分のない男だ。
私はシンクの横の食器棚に仕舞っていたバーボングラスを2つ取り出し冷凍庫の中のジップロックに入っているクラッシュアイスの大きな欠片をバーボングラスに入れて飼い主から投げられたテニスボールを嬉しそうに銜えて飼い主の元に戻るゴールデンレトリバーのようにドライデンのデスクに戻った。
今ならドライデンに「お手」と言われれば迷う事なく私はお手をするだろう。
私は強いお酒を欲していた。
飲みたいのだ。
まだ飲み足りないのだ。
昨晩も深酒が祟り私は社会通念上、決して許される事の無い大失態を犯しているというのに…
それもこれも事の発端は…
換気で開け放っていた窓からふと一枚の落葉が迷い込んで来て晩秋の切ない気持ちが込み上げてくるかのように楽しんでいた状況から一変しに昨日の夫とフィオナ、そして不気味なくらいに歯が真っ白でキザったらしいジェイクの事を思い出してしまった。
めっちゃムカつくんですけどーーー!!!
私の中で再燃していく憤怒の炎。
そうだ。
こういう気持ちを鎮める為にお酒は存在しているのだ。
我が愛するキャシー マッキンタイアーよ、心行くまで飲んで飲んで飲みまくって現在(いま)という時を楽しむのだ。
私は己にそう言い聞かせると何だか吹っ切れた。
あっ、そうだ。
私は尿漏れパッドじゃおっつかないくらいの尿意を催していたのだった。
「ちょっと、おしっこ行って来る」
私はドライデンに言い放ち昔YouTubeで観た『忍者ハットリくん』のような素早い身のこなしでトイレに駆けて行った。
おしっこでござる、おしっこでござる。
数時間前は、「殿、殿中でござる」状態だったのに私のこの浮かれ模様は不謹慎極まりないのであろうかしら?
アー、おしっこ漏れちゃうゥゥゥーーーー!
私はトイレに入るなりロックもせずにベルトのバックルを緩めジーンズとパンティを一気に下ろす。
このジーンズ、パンティ同時下ろしはうんこが漏れそうな時の究極の一手だがソウルメイトの手前お漏らしだけは回避しなければならないので今日はこの手を使う。
便座の蓋が上がっているのをささっと確認。
私は、よし!と便座に座った。
ストーン!!!
嗚呼ァァァーーー!!!!!!
便座まで上がっていたのを見落としていた。
私は『今そこにある危機』のように極限状態の中で失禁寸前の尿意に焦りドライデンやパーキンスが立っておしっこをしているという事実を見逃していたのである。
つ、冷たい。
臀部には便器の中に貯まっている水が触れている。
だが、私は便器に嵌ったという失態だけでは納めきれなかった。
私の膀胱からは宇宙に飛び立つスペースシャトルのような凄まじい勢いでジョボジョボジョボという轟音を伴って黄金水が噴出していたのである。
そう、それは認知症で入院していた老夫が夜中に突然妻の名前を叫びだしベッドから転落し脱糞するかのように…
便器に溜っていた汚水と黄金水に汚されていく私。
酒には酔っているが、まだ意識は明瞭だ。
茫然自失。
幸いジーンズとパンティは足首まで下ろしていたので被害は被っていない。
私は残尿感を残しつつも取り敢えず放尿をストップした。
それでも膀胱内の半分、いや、3分の2くらいは放出されている。
アタタタタタ。
私は、いつもお酒で失敗する女、キャシー マッキンタイアー。
こんな事くらいじゃめげないわ。
私は『ダイ ハード』のブルースウィリスよろしく!
便器からゆっくり尻を抜きに掛かった。
焦るな、キャシー。
絶対に尻は抜ける。
ウッ、ウッ、ウーン!
擦った揉んだの挙げ句、2分間便器と格闘しどうにか尻は抜けた。
フー、助かったぜ。
抜けなかったら最低でもドライデン、それで駄目だったら救助隊のあんちゃん達におまんこを披露する羽目になっていたぜ。
フー。
私は額から滲む汗を手の甲で拭った。
一先ず緊急事態は脱した。
私はトイレットペーパーを巻取り鼠径部と大腿部を叩くように黄金水を拭き取り便器にトイレットペーパーを捨てた。
再度、トイレットペーパーを巻取り臀部も拭き上げた。
そして、膀胱内に残っている黄金水を空気椅子状態で放出した。
ジョボジョボジョボジョボジョボジョボ。
陶器で出来ている便器が凹むのではなかろうか?と思わせるくらいの勢いで尚も放出される黄金水。
どんだけ膀胱に溜まってたんだ?
掃除婦のおばちゃんよろしく!
私は失態に次ぐ失態の代償として便器や周辺に飛び散った黄金水をトイレットペーパーで拭き取り便器に流した。
私はパンティとズボンを踝のところまで下ろした状態でペンギンのようにペタペタと歩いていき蛇口を捻る。
水を手に掬いおまんこ周辺と臀部、大腿部を湿らせトイレットペーパーのところまで戻り巻き取って湿らせた部分を拭いてトイレットペーパーを便器に流す。
よし、一応綺麗になった。
私は手を洗い濡れた手で髪に手櫛を入れる。
そして何事も無かったかのようにトイレを後にする。
そう、それは銀行強盗が窓口の女を周囲の客に悟られないように拳銃で脅し大金をせしめて何事も無かったかのように銀行を後にするように…
そうだ、キャシー、お前はプロフェッショナルに徹するのだ。
トイレを出てドライデンが言う。
「えれえ長かったな、うんこか?」
私はさり気なく言う。
「女は便秘する生き物なのよ。だから踏ん張ってたの切れ痔になるんじゃないかしらって思っちゃうくらいぶっというんこが出ちゃったわ」
「何か俺もしょんべんしたくなっちゃった。今、便所うんこ臭い?」
私は高級SM倶楽部の女王様がM男を罵倒するように言った。
「私のうんこは薔薇の香りよ」
ドライデンがツボに嵌りケタケタと笑いながらトイレのドアを開けた。
「うわ、何かめっちゃアンンモニア臭がする。あんた一回しょんべん検査してもらった方がいいぜ」
私はにたりと笑みを返すだけに留めておいた。
ドライデンがトイレから戻って来るとシーバスリーガルをバーボングラスに並並と注いだ。
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