25.食後の一服
ふー、食った食った。
私とパーキンス、兄ちゃんは美味だったかつ丼を平らげ腹を摩った。
パーキンスが食後の一服を私に勧めた。
私は一本抜き取り銜えると取り調べ中のデカがよくやるように火を点けてくれた。
プハァー。
うんめえー!
かつ丼の後の一服は最高だな、こりゃ。
私は健壱 なぎら似の親父はエロさも一級だが料理人としても一級だなと心の中で褒めそやした。
やるな親父!
私は余りの幸福感に知らず知らずのうちに健壱 なぎらの“いっぽんでもニンジン”を口遊んでいた。
1 いっぽんでもニンジン
2 にそくでもサンダル
3 さんそうでもヨット
4 よつぶでもゴマシオ
5 ごだいでもロケット
6 ろくわでもシチメンチョウ
7 しちひきでもハチ
8 はっとうでもクジラ
9 きゅうはいでもジュース
10じゅっこでもイチゴ
私は突っ込んだ。
はい、その通り!
ごもっとも!
だからそれがどうした?
パーキンスも美味そうに食後の一服を満喫している。
美味そうに紫煙を燻らす私とパーキンスを羨ましそうに見つめる兄ちゃん。
魚眼レンズの目ん玉が内側に寄っている。
何だ、此奴。
変顔コンテストに出したら入賞は間違いないな、こりゃ。
兄ちゃんが俺も一服と勇んでマールボロに手を伸ばした。
ぴしゃり。
親に見つからないようにこそっとおやつに手を伸ばしぴしゃりと手の甲を叩かれる子供のようにパーキンスが兄ちゃんの手の甲を打った。
「お前が煙草を吸うのは千年早い。吸い殻の中から、まだ吸えそうなまんごろを選んでそれを吸え」
私は言った。
「フィルターに口紅が付いてるのは吸わないでよね。間接キスみたいでキモいから」
兄ちゃんは、どうしても食後の一服がしたいらしい。
しょんぼりしながら、まだ吸えそうなパーキンスの吸った後のまんごろを物色した。
まだ吸えそうなのを摘み上げ銜えるとジッポに手を伸ばした。
ぴしゃり。
パーキンスが、また手の甲を打った。
「お前にジッポは一万年早い。ドライデンのデスクに1ドルショップのライターがある。お前には、それがお似合いだ」
兄ちゃんはしょんぼりしながらとぼとぼとドライデンのデスクに歩み寄りライターを見つけると火を点けた。
「プハァー、うんめえー」
黄ばんだ反っ歯を覗かせながら兄ちゃんが美味そうにまんごろを燻らす。
さながら、ホームレス中学生とでもいったところだろうか。
私は、もう一本吸おうとマールボロのボックスに手を伸ばした。
あれ、音がしない。
私はボックスを振ってみて空だと気付いた。
さっきパーキンスが吸った一本がラス1だったのだろう。
私は耳元でボックスを振って見せてパーキンスに合図を送った。
パーキンスが私の合図に気付いてマホガニーのデスクの引き出しを改めた。
戻って来ると肩を竦めてみせた。
「ストックが無い」
「えーーー」
私はほっぺをプーっと膨らませてぶすくれてみせた。
パーキンスが私の機嫌を取る為に兄ちゃんに言った。
「おい、ガキ、お前、ちょっと煙草買って来い」
えー、えー、えー、マ ジ で す かー!
容疑者にパシらせちゃって大丈夫なんすかー!
逃亡の恐れとか無いんすかー!
「食後の運動に丁度いいだろう。走って買って来い」
兄ちゃんは「お金は?」と尋ねた。
「バッキャロー」
ボコッ、バキッ!
パーキンスがグーパンチでフォアマンばりの右フックを繰り出した。
兄ちゃんは映画のスローモーションのワンシーンのように横にぶっ飛び黄ばんだ反っ歯が一本折れた。
「バカヤロ、金がなけりゃ略奪すんのが、てめら悪人の常套手段だろーがよ。もし、強盗で捕まったら今日は此処にいた事は記憶から抹消しろ。赤マル10カートンくらいかっぱらって来い。レジの金もありったけ取って来い。分ったな、クソガキ。逃げたらお前、どうなるか分ってんだろうな」
パーキンスはガンホルダーからフォーティーフォーを取り出して錬鉄製のデスクの上に置いた。
デスクライトにフォーティーフォーが照らされステージで汗だくになっているジェームス ブラウンのように黒光りしていた。
「逃げたら、てめえ死んぞ」
兄ちゃんは虐待されている幼児のように怯えた眼差しでパーキンスに尋ねた。
「で、でも、店員を脅すのにチャカが必要だよ」
パーキンスは、それもそうだなといったような表情を浮かべてマホガニーのデスクに行って引き出しからリボルバーを一丁持参して兄ちゃんに渡した。
「このリボルバーは殺人事件で押収した銃だ。弾は入ってない。ぜってーに無くすんじゃねえぞ」
「で、でも、そんな殺人事件の証拠品のチャカなんて。俺の指紋が付いちゃうじゃないかよ」
「だからパクられないようにしろってーんだ。パクられた暁には冤罪でてめえは終身刑だ」
私は付け加えた。
「ここは男臭いわね。何かいい香りの芳香剤とかもかっぱらって来なさいよ。ここから車で7,8分くらいのところにセブンがあったわよ。早く吸いたいからカール ルイスみたいにかっ飛ばして行きなさいよ。あー、後ハイネケンの6缶パックも二つ忘れないように」
「だ、そうだ。ダッシュで行って来い」
そう言ってパーキンスは兄ちゃんのケツを蹴っ飛ばした。
兄ちゃんが折れた歯から血を滴らせて走り出そうとした時だった。
「ちょっと待てー」
パーキンスが兄ちゃんを呼び止めた。
「そのツラじゃすぐ面が割れる。このスキーマスクを被って行け。それと、そのTシャツ。ザーメンでカピカピだ。それも脱いで上半身裸で行け。パクられた時は分かってんだろーな。今日、俺とお前は会っていない。以上だじゃ、ダッシュで行って来い」
パーキンスはデスクの引き出しからスキーマスクを出して兄ちゃんに投げて寄越した。
兄ちゃんは精液でベトベトに汚れているダサいストーンズのTシャツを脱ぎ捨ててスキーマスクを被って駆け出した。
さながら覆面レスラーに憧れている変質者とでもいったところだろうか。
兄ちゃんが脱ぎ捨てていったストーンズのロゴのベローマークを良く見ると顔から垂れた精液が半乾きでべっとりと付着していた。
こ、これは!
パーキンスは本日4回目の射精にも関わらず大量の精液を発射していた。
余程、溜まっていたんだろう。
ウォーホール級のモダンアートはパーキンスの顔射により偶然に創造されていたのであった…
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