18.保安官ジェイムズ パーキンスとの対面

ドライデンは保安官事務所までの約3マイルの道程をダン ペンやO.V. ライト、クレイ ハモンド、ドン バーナーなどの物真似でソウルフルな歌唱を聴かせてくれた。


めっちゃ似てるんですけどー!


私は腹を抱えて笑いめっちゃ楽しませてもらった。


顔のパーツは集団疎開している子供のように中心に寄せ集まり唇はカサカサな醜男だが愛嬌があって音楽の趣味も合うドライデンに私は愛着を感じ始めていた。


私は真のソウルメイトとめぐり逢ったような気がした。


そう、それは『めぐり逢えたら』の劇中でトム ハンクスとメグ ライアンがめぐり逢ったように…


既にアイスコーヒーの中身は空になっていた。


めっちゃ美味しかった。


私はカップの蓋を開けて氷をガリガリしていた。


だって車中は暑かったから。


氷が喉を滑り落ちて行き体内からひんやりとしてくる。


運転席のドライデンも、どうやら私と同様に暑いようで私と一緒に氷をガリガリしていた。


もう一本くらいジョイントを満喫出来たらなぁ~と思っていたら保安官事務所に到着したようである。


「着いたぜ、あんた。悪いが保安官の手前、手錠だけ嵌めさせてくれ。いやー、楽しかったぜ。あんたとの音楽談義は」


ドライデンも私との会話を楽しんでいてくれていたようである。


運転席からドライデンが後部座席の私に手錠を掛ける。


私は大人しく両手を差し出す。


老老介護に疲れた末、妻に手をかけてしまい、その夫に憐憫の情を寄せながらも職務を全うしようとするデカのようにドライデンは私に手錠を掛けた。


私は、この時には逮捕という現実に一種の興奮とスリルを感じていた。


私の中のドン ロビーが叫ぶ。


人は阿漕に生きる生き物だと…


フフフフフ…


ドライデンが先に車外に出て後部座席のドアを開けた。


私が車から降りるとジャージの入っているポストンバッグをドライデンが持ってくれた。


私は保安官事務所の前に立った。


何て身窄らしい掘っ立て小屋みたいな佇まいだ。


良く言えば箱物にお金をかけていなくて血税が真面に支出されているという事になるのだが…


だけど、老朽化は不味いだろう。


風が吹けば飛ぶとまでは言わないがハリケーンに見舞われれば保安官事務所は倒壊は免れないだろう。


「見た目は悪いけどよ、中は意外と快適なんだぜ。まあ、入ってくれよ」


そう言って、ドライデンがドアを開けて私を中に誘導した。


私は中に入って目を丸くした。


めっちゃ寒いくらいクーラー効いてるんですけど。


それに、めっちゃ豪勢な調度品に囲まれてる。


60インチはあろうかと思われる壁掛けの4Kテレビに大型の冷蔵庫。。


部屋の隅にはシンクとコーヒーメーカー。


それにクーラーも最新だし保安官のデスクはマホガニーで誂えられていてキャスター付きデスクチェアも革張りでめっちゃクッションが効いていそうな高級な奴だ。


ドライデンの物と思われるデスクとデスクチェアは其処らの事務員が使っているありきたりの安物だ。


デスクチェアにはキャスターも付いていない。


その安物のデスク一式が調度を乱し違和感を放っている。


左の壁にはドアが二つ取り付けられていてピカソのリトグラフが掛けられている。


多分、トイレと監視カメラが据えられている取調室だろう。


右の壁のほうには夫の書斎くらいの部屋が三つあり鉄格子が取り付けられている。


拘置しておく為の独房だ。


保安官はマホガニーのデスクに足を投げ出しパトリシア コーンウェルの『検屍官』のペーパーバックを読み耽っていた。


パトリシア コーンウェルの『検屍官』はエドガー賞の処女長編賞に輝いた本だ。


元記者でその後、検屍局でテクニカルライターやコンピュータアナリストとして勤務した彼女のノウハウを詰め込んだミステリーファン必読の本だ。


ドライデンが保安官に言った。


「保安官、キャシー マッキンタイアーを連行して来ました」


しゃっちこばった感じといい改まった口調といい先程までのお道化たドライデンとは様相が違う。


保安官はパトリシア コーンウェルのペーパーバックの読み掛けの部分を裏返しにして自分の胸に置きドライデンに言った。


「ドライデン、お前、助手を首になって趣味のプロのシンガーになるか心を入れ替えて俺の後釜に座るか?どっちを選ぶ?」


「も、勿論、保安官の路であります」


保安官は吐き捨てるようにドライデンに言い放った。


「俺をどれだけ待たすつもりだ。助手の職務を続けたいならば職務は迅速且つ敏速に果たす事だな。理解出来たな、ドライデン」


「イ、イエッサー」


ドライデンが二等兵のように敬礼する。


保安官は視線を私に移した。


揉み上げを見る限りは短いクルーカットか、もしくは頭頂部は禿げ上がっているかも知れない。


ステッドソン帽を被っているのでヘアスタイルまでは分らないが揉み上げはプレスリーのように長く揃えている。


リーバイスのワークシャツに、これまたリーバイスのブーツカットのブラックデニム。


マホガニーのデスクの上に投げ出した牛革のカウボーイブーツがステッドソン帽と共に俺は保安官なんだぜ!と主張している。


顔立ちは『レスラー』で批評家から絶賛された頃のミッキー ロークのようだ。


ミッキー ロークといえば整形で有名だ。


彼もジェイクみたいに整形手術を受けているのだろうか?


保安官の歳の頃は60前といったところだろうが映画俳優にしても悪くない程の男前である。


保安官が足を下し胸の上のペーパーバックをマホガニーのデスクの上に置いた。


デスクの上に置いていたマールボロの赤を一本抜き取り限定300個くらいの希少で高価そうなジッポのライターで火を点けた。


小気味よい音を鳴らしてジッポの蓋を閉じた保安官は気持ち良さげに煙を燻らせて言った。


「お嬢ちゃん、よく来たな。俺は、この町の保安官、ジェイムズ パーキンスだ」

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