11.金蔓ジェイク現る
フィオナがスマートフォンを取りディスプレイの着信履歴をみるなり顔を綻ばせた。
「もしもし、ジェイク、うんうん、いいわよ。今、友人も来てるんだけど…うん、解ったわ。30分後ね。うん、了解でーす。はいはーい、それじゃ気を付けて来てね」
フィオナの例のキャピキャピモード全開の口調。
私は大体察した。
男だ。
それも金蔓の男だ。
私は、ほんとは興味津々なんだけど、それを悟られない様にフィオナに尋ねた。
「誰からの電話だったの?」
「彼氏よ。ジェイクって言うの。資産運用のコンサルティングをやっているのよ。彼ったらやり手で車はフェラーリとマセラッティに乗っているの」
「へえ、そうなんだ」
私は興味なさ気に言ったが内心では、うちのポンコツ車2台を下取りにだしてもフェラーリの100分の1にもならないだろうと思った。
いや、下取りなんて淡い夢。
多分、スクラップ置き場に直行だろう。
だから廃車手数料を取られて出費が嵩むわ。
いっその事、盗まれたように見せ掛けて盗難届をだして隣町で火でも点けるか。
すると廃車手数料も免れ保険も入るという一石二鳥じゃないの。
狡猾な詐欺師が日々新たな手口を考案するように私の脳の中が活性化されていくような気がした。
いや、今はポンコツ車の下取りの話。
私は神を呪った。
神は何故故に人間を平等に扱わないんだろう。
戦争孤児、飢餓、貧富の格差、エトセトラ、エトセトラ…
真面目に頑張っているのに報われなかったり試練に打ちのめされたりする善人。
人を欺き私腹を肥やす悪人。
罪のない人々を殺めたり搾取したりする不届き者。
この世は不条理と矛盾で成り立っているんだわ。
私はペシミズム的思想に耽り酔いも回り若干気が滅入ってきた。
そうこうしているとフィオナの彼氏がやって来た。
インターフォンでフィオナが応対する。
「待ってたわよ、今解除するから」
オートロックを解除して2,3分くらいでフィオナの彼氏、正確には金蔓が部屋の前に現れた。
フィオナが玄関に出迎えに行き彼を部屋に請じ入れた。
私がリヴィングのカウチで座って待っているとジェイクが私に異常なまでに白い歯を覗かせて笑みを投げ掛けフィオナに言った。
あの歯はきっとラミネートベニアだわ。
メッツにいた新庄みたいだわ。
きっとジェイクも整形しているに違いない。
フィオナが彼に私を紹介した。
「ジェイク、こちらは私の大学時代の大親友キャシーよ。キャシー、こちらはジェイク」
「やあ、僕はジェイク。フィオナから君の話は前に聞いた事があったけど、こんなに綺麗な女性だとは。お会い出来て光栄だ」
ジェイクが右手を差し出してきた。
綺麗だと言われて悪い気はしなかったけど、どうせ社交辞令でしょ。
男なんて何奴も此奴も皆同じようなものだわ。
私は内心で思いっきり毒づき表面上は飛び切り上等なスマイルを作ってジェイクの手を握り返した。
あれ、彼の握っている左手のクーラーバッグに入っている物は?
私は目敏かった。
だが、私以上に目敏い人物がこの部屋にはもう一人いた。
「ジェイク、何を持って来てくれたの?」
フィオナがジェイクに尋ねた。
ジェイクは大したもんじゃないよといったように言った。
「ドンペリのプラチナだよ。5本買って来たよ。1本はキャシーとの出会いを祝してこれから乾杯しよう。氷が無かったらと思って氷も買って来てあるから。残りは冷やしておいてくれよ、フィオナ」
ド、ド、ド、ドン ペリニヨンのプラチナ!
し、し、し、然も5本!
「ドンペリニヨンのプラチナはエノテークという専用のセラーで最低13年から16年かけて熟成されたドン ペリニヨンの最高級じゃないの!
ぶどうの品質が良い年のみに作られる希少な一本。
さっき私達が飲んでいたモエ エ シャンドンのシャンパンの中でも女王と呼ぶに相応しい最高級の神の雫。
私はフィオナと既にボトル3本空けているのに喉から手が出るくらいドンペリのプラチナを欲していた。
ちょいゲロった記憶は地平線に沈む太陽のように既に忘却の彼方に葬られていた。
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