7.フィオナ宅へ
私は愛車のライフを隼のように駆った。
だが、アクセルをベタ踏みしても時速30マイルしか出なかった。
畜生、このポンコツめッ。
私は荒んだ心を癒すべくCDの再生ボタンを押した。
スピーカーからウィリアム ベルとジュディ クレイがデュエットしている“プライヴェート ナンバー”が流れてきた。
そう、それは今まさにうってつけのナンバーだった。
私にはプライヴェートな時間が必要だったから…
私は“プライヴェート ナンバー”をハミングしながら当てもなく彷徨う流浪の旅人のように愛車を流した。
35分後。
フィオナのマンション。
フィオナは大学時代からの付き合いだが結婚もせずに仕事も転転としている。
彼女こそ流浪の旅人と呼ぶに相応しい根っからのヒッピーだった。
その割には彼女はいつも羽振りがいい。
何処かの金蔓を侍らせてセックスライフを満喫しているんだわ。
フィオナとは、よく学生時代にマリファナもやった。
私はオートロックの入り口でフィオナを呼び出した。
インターフォンからキャピキャピした彼女の声がした。
昔からそうだ。
昔から彼女はキャピキャピしていて男に色目を使っていた。
「もしもし、どなた?」
「あたしよ、キャシーよ」
フィオナのテンションが上がった。
「えー、キャシー、ひっさしぶりーーー。今、開けるから上がって来てちょうだい」
オートロックが解除され私はフィオナの部屋に向かった。
部屋の扉を開けるなりフィオナがハグして来た。
「半年、それとも1年。超久しぶりだね。で、どうしたの?急に前触れも無く訪ねて来るなんて、キャシー」
私は返答に困った。
「うん、ちょっとね。悪いけど今日泊めてくれない」
「え、それはいいけど…」
フィオナはちょっと戸惑ったように答えた。
私はリヴィングに請じ入れられた。
「夕食食べた?」
「いえ、まだよ」
「あたしも食べてないんだ。今からピッツァのデリバリー頼むから一緒に食べましょ、キャシー。あなたとこうやって夕食を頂くなんて学生時代に戻ったみたいだわね」
「ちょっと掛けて待っててちょうだい」
彼女がカウチを目で示した。
私は落ち着かない様子で何だかそわそわしていた。
フィオナがキッチンからフルートグラスを2つとワインクーラーに入れられたモエ エ シャンドンのブティユ(750ml)のボトルをリヴィングのダークブラウンのアンティーク木製フレームで天板が部厚い透明ガラスになっている値が張りそうなテーブルの上に置いた。
フィオナが私の瞳をとろけるような眼差しで覗き込んだ。
慣れた手付きでワインクーラーの氷に浸かっているシャンパンボトルをタオルで水滴を拭き取りコルクを抜いた。
ポンと渇いた音が、どうしようもない夫に頭を悩ませていた沈んだ私の気持ちをパーティー気分に誘ってくれる。
フィオナがフルートグラスにシャンパンを注ぎ乾杯をした。
フィオナが久久の再会を祝して言った。
「善き友人に」
私はフィオナに続いた。
「昔の良き思い出に」
フルートグラスをカチンと合わせて私はグラスの中身を一気に飲み干した。
シャンパンの雫が空腹な私に赤い鮮血を吸収してくれる生理用ナプキンのように染み込んでいく。
フィオナもグラスのシャンパンを一気に飲み干して私と自分のグラスにまたシャンパンの雫を並並と注ぎスマートフォンでピッツァのデリバリーを頼んだ。
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