4.ポンコツ車

翌朝。


仕事に出掛ける前に夫が言った。


「今日はサブちゃんのコンプリートボックスが我が家にやって来る日だ。キャシー、この家の家宝となる一品が僕らに齎される目出度い日なんだよ。今日は僕がケンタッキーを買って来るから夕食の支度はしなくていいよ。いやー、楽しみだなぁ~」


夕刻。


時間にルーズな日本のクソバイヤーのお陰で私は30分残業になった。


あのクソバイヤー。


私が其奴の親だったら真っ先にタイム イズ マニーという教訓を叩き込んでやるのに。


私も夫には気付かれないようにしていたが、ジーン チャンドラーとテデスキ トラックス バンドのCDを密かに楽しみにしていた。


時刻は17時42分。


飛ばして帰れば15分。


私はタキシードの裾を颯爽と翻しボンドカーに乗り込むジェームズ ボンドのように16年落ちのホンダ ライフに乗り込んだ。


総走行距離52万km。


これは地球1周に換算すると13周分。


私は、このライフを新車で購入し16年乗り続けている。


この車でデッドヘッズのようにテデスキ トラックス バンドやデッド&カンパニーのライヴに全米各地に出向いたものだ。


塗装は剥げ掛かり前のバンパーも少し落ちかかっている。


私は文字通り大学卒業後の人生(ライフ)をこの愛車と共に乗り越えてきた。


夫よりも付き合いが長く、寧ろ夫と車の二者択一ならば車の方に愛着がある。


12Rフルに闘って判定に持ち込まれても最後にレフェリーが手を上げるのは間違いなく車だろう。


私はクラッチとアクセルの操作を巧みに操りギアチェンジをローからセカンド、セカンドからサード、サードからトップへと『ワイルド スピード』のポール ウォーカーのようにシフトチェンジさせてアクセルをベタ踏みした。


ポリ公なんてビビってないわよ。


もう100マイルは出ていてもいい筈。


私は体感速度に疑問を感じた。


私は恐る恐るスピードメーターに目をやった。


私は自分の目を疑った。


アクセルをベタ踏みしているのに時速30マイル(時速48km)しか示していなかったのである。


えっ、嘘でしょ!


通りでウィンドウから見える流れ行く景色が緩やかでいつもと同じだと思ったわ。


これじゃ高速走れないじゃないの。


先月、車検に出したばかりよ。


通りでバンパーが落ちかかっているのに何故車検が通ったんだろうと思ったわ。


あのポンコツディーラー。


私は安全運転で帰った。


時刻は18時10分。


私はガレージに車を入れようとしたら既に夫のダイハツ ミラが戻っていた。


夫の車は19年落ちで地球20周分を走破していた。


剥がれた塗装の部分は腐食していた。


スクラップ工場に積まれていても何ら遜色の無い車だった。


私は己のポンコツ車と夫のポンコツ車を見て心で嘆いた。


ライヴに行ったりCDを収集している場合じゃないと…


早く車を買い替えないとと思った。

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