3.待つ夫

私が注文を完了させてから10日間。


夫は夕食の時に毎回尋ねて来る。


「日本の業者はもう発送したかい?」


クリスマスのプレゼントを目を輝かせて日々待ち侘びる少年のようである。


私は聞き分けの無い愛犬を抱える飼い主のように「まだよ」とだけ答える。


注文から18日目。


メールボックスにアマゾンからの着信があった。


〈本日、日本のフォーエヴァー ミュージック エンタープライズから商品が発送されました。空輸での発送となりますので諸事情を勘考しましてお客様のご自宅への到着予定は2週間から3週間です〉


私はメールの内容を夫に伝えた。


「うーん、待ちきれないなぁ~。でも、待つしかないんだよなぁ~」


夫はぼそりと呟き自分の書斎に行った。


私は仕事から帰宅して取り込んでおいた洗濯物をソファーで畳んでいたら夫はカラオケ内臓マイクを片手に裕次郎 石原の“俺は待ってるぜ”を歌いながらリヴィングに入って来た。


私は日本という国や文化は尊重するが、またしても日本から遠路はるばるやって来たお節介観光客の親父が夫に教え込んだなと思うと腸が煮えくり返る思いだった。


私は友人のフィオナからかなり前に貰っていた抗精神薬を服用してベッドに入った。


発送のメールが届いてから19日目。


アマゾンからメールボックスに着信があった。


〈明日18時にお客様がご注文された注文番号414360930の商品3個が到着予定です。下記の配送業者がお届けに参ります。ご都合にご不便がありましたら下記コールセンターまでご連絡くださいませ。商品に破損、不備な点がございましたらアマゾンカスタマーセンターまでお問い合わせくださいませ。この度はお買い上げありがとうございます。またのご注文お待ち申し上げております〉


私は夫に知らせた。


喜悦の感情を体全体から漲らせる夫。


リオのカーニヴァルで際どい衣装を身に付けテンションMaxになっている踊り子のお姉さんのような危ういテンションを夫に感じ取った。


「ヒャッホー、それって本当かい?」


私は夫が余りの興奮にサンバのステップでも刻み出すのではなかろうかと一瞬身構えたが、こんな夫でも思慮と分別を持ち合わせていたようである。


私は精神を逆撫でされるのを免れ事無きを得た。


その日の晩は寝酒にリープフラウミルヒの白を一杯だけ嗜んで抗精神薬に頼らずに眠れた…

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