第8話
無数の欠片が「小鳥」とささやきだした。私は今一生分の名前を聞いている。スクリーンでは私の迷子のアナウンスが流れている。
欠片のきらめきは大きな光を作って、最後の私の記憶を思い出させた。
ハイビームの眩しい光とブレーキをかけた時の大きなスリップ音。
私は中学校の帰り道でトラックに跳ねられた。走馬灯なんて見る暇もないほどの即死だった。あの日も雪が降っていた。世界が真っ白になりそうなほど。
次の瞬間には私はすごく体が軽くなって、世界が光に満ちた。何かとても自由になった気がして、全身に溢れる喜びを表すかのように世界中を飛び回った。
なぜか感覚的に私は今、なんでもできる!って思ったから、世界中の街並みを一気に見て、行ってみたくてしょうがなかったライブを見た。すごい空間だった。音の震えで私は魂ごと吹き飛ばされそうなほど。感動して世界中のライブを一気に見てまわった。誰もいけないようなすごい海外アーティストのライブも全部ただで見て回れた。
嬉しくて飛び回っていたら、美香を見つけた。私は美香にライブすごかったって言おうと近寄ったら、目が溶けるんじゃないかと思うほど号泣していた。美香が泣くところを私は初めて見た。怖気づいて周りを見ると透も肩を震わせていた。
振り返ってみると私の写真が黒く縁どられた額に入っていた。これ、私のお葬式なんだ、とぼんやり思った。実感はない。当たり前だ。死んでるんだから。私はなぜか悲しい、という思いがなくて、透にいつか行きたいと言っていた海外のあのバンドのライブに行けたんだよって報告したんだけど、全然聞こえないみたい。困ったな、私は今、悲しくないんだけどって思った。
仕方ないから外に出たら職員さんの前で土下座している人がいた。この人が私を轢いた人だとすぐにわかった。おじさん、っていったら怒られるかもしれないくらいの年齢の男性だった。憔悴しきった顔だ。私はなんだか申し訳ない気持ちになって、帰っていく男性の後ろをついていった。その日も一面の雪景色だった。うなだれて雪道を帰っていくその男の人にそんなこともありますよ、なんて声をかけていたらその人がボソッと言った。
せめて親がいない子でよかった。
って。私はその時なぜか、そっかだから死んじゃったんだって思った。塩をかけたナメクジみたいに、小さく小さくなって、ぷつっと記憶がなくなった。
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