第6話

この俯くのがいやだったんだよな、って欠片の透をみる。美香に嫉妬しだしたのもこの時からだ。私みたいに無理して笑わないのに、美香は特に、男の子に人気があった。美香はまったく気に留めてなかったけれど。それを含めてうらやましかった。教室で図書館の本を読んでいる、そのきれいな美香の横顔も、キラリと欠片になっていた。


映像が切り替わる。施設の寄付で、ギターが届けられた日だ。ほしくて仕方なかったから嬉しくて思わず飛び跳ねた。


このギター、最初はこそは取り合いになったんだけど、みんな弾けなくて気づいたらほとんど私のものになっていた。ギターの師匠はもちろん、透だった。


このコードはこう、いや違う。


これ、思い出すの恥ずかしいやつ!でもそんなの気にせず、スクリーンはあの日の私たちを映し出す。すっかり寒くなって、非常階段じゃコードを抑える指がかすかに震えていた。コードの押さえ方を教わっていた時、F7をどうやって抑えるのかわからなくて、そう、これ!透が私の後ろから指押さえたの!きゃー!指が出てる手袋はめてた透の指は最初温かかったのに、途中から私の方が熱くなって、もうこの時の記憶全然なくなったのに、何で映像には残ってるの!やめてよ!いいから!この夜ギター抱きしめて寝た映像とかもう勘弁して!

やめて、なんかキラキラがいっぱい出た!いい、いい、もういいからストップ!


目をつぶるという選択肢がないってこんなに困るんだ。初めて知ったよ。


嘘でしょう、これ、初めて一曲弾き語りできて、透に披露してるやつじゃん!やめて!ほんとやめて!うわぁ、今聞くと下手くそすぎる。リズム取れてなさすぎる。私これ絶対得意げな顔してた。


いいな


って聞こえた。美香の声。それは美香にも弾き語りを披露した日だった。


いいな、歌、うまくて。


美香だってきれいでいいじゃん。男のあこがれの的だよ。


そういった時の美香の顔。ちょっと傷ついた顔。いやだな。こんなとこまで見せるんだ。美香が時々この顔をすることをわかっていながら、私は美香に曲を覚えるたびに披露していた。


もちろん、純粋に聞いてほしい気持ちもあったけれど、美香に聞いてもらう時、そこに確かに存在していたのは優越感だ。強くて、きれいな美香に対して、私が唯一持っているところだったからだ。こんなところまで欠片に変わるんだ。


最悪だな、私。あれだけのものを美香からもらっていたのに。すごく自分がちっぽけに思える。やっぱり私は何か人間的に欠けているんじゃないだろうか。だから、お母さんもいなくなってしまったんじゃないだろうか。


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