第2話
体をなくすって、こういう感覚なんだ。上も下もない。力を入れるところも何もない。だからリラックスしているけど、何もよりどころがなくてちょっと怖い。私だけの世界。
感覚が直接的でやけにクリアに見える。肉体がないとすぐに気づいた。私は死んだのかな。まだ自分があやふやでよく思い出せないけれど。
このスクリーンみたいなのは、いわゆる走馬灯?それにしてはひどい映像ばかり出してくる。走馬灯ってもっといい思い出が流れるものじゃないの?
でもこんなもんだったんだろな。私の人生。親にも捨てられて、家族を持つこともなく終わった。死んだとしてもどうせつまらない死に方だったんだろう。私がいなくなってもきっと何も変わらない。
もしかして、ここは地獄??何もなかったから何もないところに飛ばされてるのかな。だとしたら笑える。私、罪人かなにか?
なんだが光も黄色くなってきた。いや、スクリーンいっぱいに黄色いな。なんかプルプルしてる。かき回し始めた。茶色い線が出てきて
…ってこれプリーン!!
これプリンじゃん。なんで今プリン?いや、大好きだったけど!プリンさえあればごはんはいらなかったけれど!!
プリンはプッチンプリンこそがプリン。焼きプリンなど邪道。
言ってた言ってた。何これ、自分の声も再生されるの?勘弁して。これ小学生の頃だな。ということは、やっぱり美香だ。一緒に帰ってる時の映像だ。
美香は同じ施設の同じ年の女の子で、いつもぶすっとしていた。達観していて、大人と話すのが上手で、だけど可愛げがないって言われちゃう女の子。私と違ってきれいな子。でも一切媚を売らない。大人に対してとげとげしく、対等に話す。逆に私はいつもにこにこして、基本、はい、っていうようにしていた。その方が早く済むから。
二人とも根っこの部分が似てたんだと思う。施設の職員さんは好きな人も嫌いな人も関係なく頻繁に変わっていくところだったから、なんというか私たちには「定点」のようなものがなかった。全部が流れていく中、流されないように踏ん張るやり方が、美香はとげを出すことで、私は笑顔で流すことで耐えていたんだと思う。
なんかやってられないなー、って思うことがあるとよく、「とりあえず笑えば?」「とりあえず怒れば?」みたいなこと言い合って笑った。この子がいなかったら、私はたぶん心が潰れてたと思う。私のしょうもない人生で、唯一の幸運は美香と出会えたことだ。
学校の給食に時々でてくるプリンを美香がいつもくれた。「私嫌いだから」って。プリンはね、食べ方が決まってて、カラメルのところもぐちゃぐちゃに混ぜて食べるの。甘い飲み物みたいで、ちょっとずつ味が違う感じがすごく好きだった。一緒に帰る道すがら、美香がくれるぬるくなったプリンを混ぜて飲みながら帰った。
その食べ方、ありなの?
っていつも美香に言われてた。なんか小学校の時は色々食べながら帰ったな。レーズンパンとか人気なくて、二つも三つも持って帰って、食べながら帰った。嫌いなものが残せるって不思議だね、って言いながら。たくさん余った日は、こっそり夜中、美香と食べながらお話していた。おいしいね、って言いながら。パンだけ食べるから時々むせて大変だったけど、美味しかった。窓から指す光だけ。満月の日は本当に明るいことを周りの子たちはよく知らなかった。満月の夜に美香とお話しする日は特別、二人だけの世界みたいですごく落ち着いた。
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