貴方の少女

K.night

第1話


真っ暗で何も見えない。何も感じない。温かくも、寒くもない。誰もいない。自分がどうなっているのかさえわからない。


何もない。


ここはどこだろう。私は、何をしていたんだっけ。


遠いようで近い。何があったんだっけ。私には。


あれ、光が見える。


真っ白な光。


ただただ白い光。


あれは、雪だ。光なんてなかったけれどただ一面に白い世界。


殴りつける雪の冷たさももうわからなかった一面の白い景色。


そうだ。これを私は見て、体験した。その映像がスクリーンのように目の前に流れている。


私が小さい頃に、お母さんを探して、雪の中をとにかく走ったあの世界だ。うまく歩けなくなって、雪に少しずつ埋もれて。自分の両手を見たら、真っ赤で小さくて。


この手じゃ何もつかめないんだと白と赤に絶望したあの日。


この赤い小さい手の映像を私は覚えている。小学校に入る前だったのに、あの惨めな気持ちを。


場面が切り替わった。これも私の手だ。机の上で固く両手を手握りしめている私の手。


これは小学校の時の記憶だ。いじめられていた時の。背中に誰かが何か貼っていた。なんて書いてあったのかは知らない。見ずに捨てた。後ろで何人かがくすくす笑っていた。授業中なのに。私はこの時間をただただ耐えるために俯いて拳を握っていた。手のひらから血がにじむくらいに。


場面が切り替わる。また私が握りしめている手の映像。画面いっぱいのかわいそうなくらい力が入っている私の拳。


中学生になって私が路上で歌っていた時、学生が何人か私のギターを蹴って絡んで来た時だ。確か背中も蹴られた気がする。私は小さく小さく丸まって、手をぎゅっと小さくしてただただその時が過ぎるのをまった。


嫌い、嫌い、こいつら全部許せない。大嫌い。不幸になってしまえ。そう心の中で膨れ上がるそのどす黒くて熱い情動を自分の中から出さないように、必死に耐えたあの日。



惨めだな、私は。それでも耐えて耐えて一生懸命、固く握った私の手。今、その手が私にはない。

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